最新記事

企業

ヤフーが買収「タンブラー」は何がすごい?

おしゃれでセレブに大人気のブログサービスが切り開くSNS新時代

2013年5月27日(月)18時20分
レベッカ・デーナ

新たな挑戦 買収発表直後のヤフーのマリッサ・メイヤーCEO(左)とタンブラーのデービッド・カープCEO(5月20日、ニューヨーク) Adrees Latif-Reuters

 話題になることで金が儲かるなら、ブログサービスのタンブラーは今頃ウォルマートより大きくなっているはずだ。

 何しろタンブラーは、オバマ政権からファッション写真家のテリー・リチャードソンまで、飛び切りクールなセレブやアーティストに愛用されている。スーパースターのジェイ・Zとビヨンセ夫妻は、生後1カ月の娘の写真をタンブラーで公開した(アメリカのスターは子供の「初写真」をゴシップ誌に売ることが多いのだが)。

 タンブラーの魅力は、シンプルな使いやすさとデザインの美しさにある。一般的なブログ機能に、SNSの機能が付いているのも特徴だ。つまりツイッターやフェイスブックのように、他人のブログをフォローしたり、自分のブログをフォローしてもらうことができる。

 フェイスブックやツイッターと大きく違うのは、アートっぽい雰囲気だ。トップページ1つを取っても、味気ない機能的な画面ではなく、毎日違うアートワークが現れる。あるときは絵本作家ロジャー・デュボアザンの挿絵で、あるときはデンマークの写真家ペア・バク・イェンセンの連作だったりする。「世界中のクリエーターをフォローする」という宣伝文句がぴったりだ。

 タンブラーに登録すれば、あなたも「世界のクリエーター」の1人になれる。約5300万のブログは、10代の日記風のものもあれば、映像作家の卵が作ったビデオクリップが主体のものもある。誰もがそこで自分という「ブランド」を構築しようとしている。しかもサービスはすべて無料だ。

 いや、無料だった、というべきだろうか。タンブラーは12年5月初旬、初の大規模な有料サービスをスタートさせた。一定の料金を払うとタンブラーのトップページ(月間訪問者数は1億人以上)で、自分のブログを紹介してもらえるサービスだ。

月160億のページビュー

 どんなブログサービスやSNSも、規模が拡大するにつれてサービスを有料化したり、広告を増やす必要が出てくる。

 タンブラーも例外ではない。これまでに計1億2500万ドル以上の資金を集めてきたが、成長を軌道に乗せるためにその大部分を使い切ってしまった。「みんな(投資家からの)プレッシャーを感じている」と、デービッド・カープCEO(25)は社内の雰囲気について語る。

 だがタンブラーは有料化と広告掲載に関しても、ほかとは違う洗練されたスタイルを模索している。カープの腕の見せどころだ。

 秀才が集まることで有名な公立のブロンクス科学高校を15歳で中退したカープは、自宅学習の傍ら、MTVの仕掛け人でプロデューサーのフレッド・シーバートの下で働き始めた。コンピュータープログラムの書き方を独学でマスターし、シーバートの紹介でIT企業の最高技術責任者も経験した。

 そんなカープがブログに興味を持ったのは07年、19歳のときだった。既にブログは一般的になっていたが、既存のサービスはユーザーに技術的な知識があることを前提にしていた。

 もっとシンプルなサービスがどうしてないんだろう。そう思ったカープは自分で作ることにした。こうして誕生したタンブラーはたちまち人気を集め、マンハッタンの小さなオフィスに従業員2人でスタートした会社は、今やエレガントなグラマシー地区に2フロアを借り切る規模にまで拡大した。

 ネットベンチャー企業らしく、オフィスには卓球台もあるし、冷蔵庫にはビールも入っている。ただし子供のパーティー会場みたいにはじけた他社の雰囲気とは違って、タンブラーの社内は落ち着いている。

「こいつらはオタクだから」と、11年までオバマ政権のテクノロジー顧問を務めていたアンドルー・マクロフリン副社長は言う。「ビールをがぶ飲みするより、ちょっと笑えるクリップを作っているほうが楽しい連中だ」

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

NZ中銀、自己資本規制見直しの必要性否定 競争当局

ワールド

ガザ戦闘、人道状況に「著しい悪影響」 米国務省が人

ワールド

ロシアがウクライナに無人機攻撃、南部オデーサで7人

ビジネス

中国の研究機関、エヌビディアの先端半導体調達 米の
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 3

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバイを襲った大洪水の爪痕

  • 4

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 5

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 6

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 7

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 8

    冥王星の地表にある「巨大なハート」...科学者を悩ま…

  • 9

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 10

    米セレブの「恥ずかしい肉体」をさらす際どいビキニ…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 3

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 7

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 8

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 9

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 10

    ネット時代の子供の間で広がっている「ポップコーン…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中