最新記事

社会

欧州に蔓延する自殺という疫病

2012年8月9日(木)15時34分
バービー・ラッツァ・ナドー(ローマ)

 エクイタリアは交通違反の罰金や民間債権者の取り立ても請け負っており、こうした場合の手数料は最大15%に上ることがある。10年には88億7000万ユーロの徴収額に対して、実に12億9000万ユーロもの利益を上げた。今年は国策として徴税強化が最優先されているため、エクイタリアの利益は20倍近くに膨らむかもしれない。

 先月にはわずかに手数料率を引き下げた同公社だが、期日までに納税しないと容赦なく2倍、3倍の罰金を科すため、滞納者はすぐ危機的状況に追い込まれる。ナポリで自殺したアルピノはその遺書で「私の人生をめちゃめちゃにしてやろうという意図」が感じられたと、エクイタリアを名指しで非難した。

 4月には、同公社の顧問弁護士だったジェナーロ・デファルコが「エクイタリア流の取り立て手法」に抗議して職を辞した。「これで少なくとも自分の良心の呵責を和らげることができる。これが法律家たちの品位を回復させる助けになればいいし、現下の危機を乗り越える社会的・倫理的な対処法を考える機会となればいい」

議員の給与は最高水準

 こうした状況下、エクイタリアとその職員に対するテロ攻撃も増えている。

 昨年12月にはローマ本社に送り付けられた小型爆弾で総裁が負傷。この5月には54歳の男がライフルを手にベルガモ支所に押し入り、職員15人を人質に11時間立て籠もった。5月半ばにはリボルノ支所に火炎瓶が投げ付けられる事件があり、その数日前にもローマ本社に小包爆弾が送り付けられている(けが人はなかった)。

 こうした事態にも、マリオ・モンティ首相は「長年にわたる税金逃れが現在の危機的状況を招いた」と主張し、エクイタリアの仕事を正当化している。また内務省は、同公社の本社と支所を軍に警備させることを検討している。

 夫を自殺で亡くしたマローネは、エクイタリアは国が何年も見て見ぬふりをしてきた税金や未払い金の徴収で利益を稼ぐべきではないと考えている。モンティについては「カネ勘定と徴税の得意な銀行家だが、選挙で選ばれておらず、誰に対しても説明責任がない」と語り、モンティ率いる「実務家内閣」は国民の絶望に対する配慮がないと批判する。

 マローネはまた、国民が緊縮策の影響に苦しんでいるのに、イタリアの議員たちは今もヨーロッパで最高水準の報酬を受けているという事実を指摘した。

「議員たちは今も毎月3万ユーロを受け取っているが、国民は10ユーロの食べ物を食卓に並べることもできない。こんな状態で、どうして政府を尊敬できるだろうか」と彼女は涙を流しながら言う。「彼らは私たちを絶望に陥れている。これは民主主義じゃない。自由じゃない」

「ほかの誰にも、私みたいな経験はしてほしくない。でも現に毎日、新たな未亡人が生まれている」とマローネは言う。「このままのペースでいくと、遠からずこの国の貧乏人はずっと少なくなるでしょう。みんな、自ら命を絶ってしまうから」

[2012年7月 4日号掲載]

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

日鉄のUSスチール買収、法に基づいて手続き進められ

ワールド

再送-中国とインドネシア、地域の平和と安定維持望む

ワールド

インドネシア、大規模噴火で多数の住民避難 空港閉鎖

ビジネス

豪企業の破産申請急増、今年度は11年ぶり高水準へ=
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    【画像】【動画】ヨルダン王室が人類を救う? 慈悲深くも「勇ましい」空軍のサルマ王女

  • 3

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画って必要なの?

  • 4

    パリ五輪は、オリンピックの歴史上最悪の悲劇「1972…

  • 5

    人類史上最速の人口減少国・韓国...状況を好転させる…

  • 6

    アメリカ製ドローンはウクライナで役に立たなかった

  • 7

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 8

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    対イラン報復、イスラエルに3つの選択肢──核施設攻撃…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 3

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...当局が撮影していた、犬の「尋常ではない」様子

  • 4

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 5

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 6

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 7

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 8

    「もしカップメンだけで生活したら...」生物学者と料…

  • 9

    温泉じゃなく銭湯! 外国人も魅了する銭湯という日本…

  • 10

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 7

    巨匠コンビによる「戦争観が古すぎる」ドラマ『マス…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中