最新記事

ティーパーティーの正体

ティーパーティーの正体

アメリカ政治を脅かす怒れる民衆
中間選挙の行方は彼らの手に

2010.10.13

ニューストピックス

ティーパーティーの正体

共和党予備選で大物候補を相次ぎ蹴落とす草の根保守派連合の実力とは

2010年10月13日(水)12時06分
ジェイコブ・ワイズバーグ(スレート・グループ編集主幹)

広告塔 ティーパーティーの「顔」としてオバマに吠えまくるサラ・ペイリン前アラスカ州知事 Brian Snyder-Reuters

 11月2日の中間選挙に向けて全米各州で民主・共和両党の候補者を決める予備選が相次いで行われるなか、もはや無視できない存在がある。草の根保守派連合「ティーパーティー」だ。

 9月14日に行われたデラウェア州とニューヨーク州の予備選では、ティーパーティーが推す候補が共和党候補の座を勝ち取った。これに先立ち予備選が行われたケンタッキー州やネバダ州やアラスカ州でも、ティーパーティーが共和党主流派の大物候補を破った。

 いったいティーパーティーとは何者で、何を求めているのか。

 さまざまな調査や集会の参加者を見る限り、この運動の中心となっているのは「大きな政府」を嫌い、社会の変化に敵意を抱く中流層で中年の白人男性だ。その横顔は実のところ、過去の右派運動(78年の「カリフォルニア納税者の反乱」など)の参加者や、ティーパーティー自身が敵意を向ける共和党支配層とぴったり重なる。

 ティーパーティーの特徴は、そのアナーキーな性格だ。彼らはあらゆる権威に敵意を示し、いつもけんか腰の言動を取り、自分たちが非難する政策に対して建設的な代替案を示すことはない。ある意味で、60年代のニューレフト(新左翼)の右派版という見方もできる。ただしニューレフトが若者中心で未来志向だったのに対して、ティーパーティーは年齢層が高くて考え方も後ろ向きだ。

 彼らは資本主義と憲法が絶対的だった時代を懐かしむ(言うまでもないが、そんな時代があったことはない)。そしてやたらと「名誉を回復する」とか「アメリカのルーツに立ち返る」とか「われわれの国を取り戻す」と叫ぶ。

 問題は、いつの時代まで立ち返るかだ。極端な憲法原理主義を唱えるグループは、独立戦争時代の軍服を着てパレードに繰り出す。彼らの主張は、連邦政府の役割を憲法の文面どおりに制限して、それを超える法律は州政府が無効にせよということだ(この考えは19世紀初めに連邦最高裁判決で否定されたが、それは無視らしい)。

現実に対する拒否反応

 過去へのノスタルジーを別にすれば、ティーパーティーに最も特徴的なのは怒りだ。自分たちが苦労しているのは、自分たちよりも社会階層が上か下の誰かのせいだ。リベラルなメディアに職業政治家、それに「いわゆる専門家」やウォール街の金融機関などのエリート。彼らは中流納税者を犠牲にして、貧困者やマイノリティー、移民(または金持ち)の便宜を図っている──。

 エリートに対する反感自体は、決して新しいものではない。だがティーパーティーはそれをレベルアップさせている。彼らの唱える個人主義が最も極端に表れるのは、自分に都合のいい現実を選び、専門家が言ったというだけで嘘だと決め付ける態度だ。

 例えばメディアが、バラク・オバマ大統領はアメリカで生まれ、イスラム教徒ではなくキリスト教徒だと報じれば、彼らはそれは嘘だという確信を一層強める。彼らによれば、オバマはアメリカ人から銃を取り上げようとしており、地球温暖化は極左のでっち上げだ。14日の予備選でデラウェア州の共和党上院議員候補に決まったクリスティン・オドネルは、進化論より天地創造のほうが証拠は多いと言う。

 ノスタルジーと怒り、そして現実に対する拒否反応は、自分の居場所を失うことや、国の指導権を誰かに譲ることに対する不安の表れにほかならない。調査を見れば、ティーパーティー支持者は不況の最大の被害者ではないが、社会の変革で自分たちの立場が脅かされていると感じている。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中