コラム

香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジアの宝石」の終焉

2025年12月13日(土)19時02分
ラージャオ(中国人風刺漫画家)/トウガラシ(コラムニスト)

「中国本土化」が招いた制度崩壊

災害後の情報封鎖と「維穏(治安維持)」型処理は、かつて香港に存在した透明で問責可能な制度への信頼が完全に崩壊したことを意味する。かつての香港には独立した司法、政府をチェックする「廉政公署」、自由な報道、民選された議会という複数の権力制御装置が存在し、それが自由で繁栄した香港の根幹を支えていた。しかし今や民意は弱まり、言論の場は縮小し、メディアは服従を求められ、司法は「正義より安定」を優先する中国式ロジックへと傾いている。

香港の「中国本土化」が招いた制度崩壊を、大火災によって世界は目撃した。燃えたのは建物だけではなく、香港という社会に残されていた最後の信頼だった。


ポイント

維穏
「社会穏定(安定)の維持」の略語。民衆による暴動や騒動の多発を受け、共産党政権が使い始めたスローガン。2025年の中国政府の維穏予算は2428億元(4兆8560億円)に上る。

廉政公署
1960〜70年代の香港の経済成長を背景に、はびこった汚職を取り締まるため74年に発足した汚職捜査機関。公務員のほか、民間企業の捜査や取り締まりも担当する。

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プロフィール

風刺画で読み解く中国の現実

<辣椒(ラージャオ、王立銘)>
風刺マンガ家。1973年、下放政策で上海から新疆ウイグル自治区に送られた両親の下に生まれた。文革終了後に上海に戻り、進学してデザインを学ぶ。09年からネットで辛辣な風刺マンガを発表して大人気に。14年8月、妻とともに商用で日本を訪れていたところ共産党機関紙系メディアの批判が始まり、身の危険を感じて帰国を断念。以後、日本で事実上の亡命生活を送った。17年5月にアメリカに移住。

<トウガラシ>
作家·翻訳者·コラムニスト。ホテル管理、国際貿易の仕事を経てフリーランスへ。コラムを書きながら翻訳と著書も執筆中。

<このコラムの過去の記事一覧はこちら>

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