コラム

令和コメ騒動、日本の家庭で日本米が食べられなくなる?

2025年02月26日(水)14時30分

新米が出回って以降もコメの価格は上がり続けている Antoine Boureau/Hans Lucas/REUTERS

<アメリカで販売されている日本産短粒米の価格は、日本のように高騰していない>

昨年の晩夏から、日本では急速にコメ不足が問題になってきています。その後、秋の収穫期を過ぎて不足は解消されましたが、依然として高値が続き、むしろ価格の上昇が止まりません。原因としては、

1、長年続いた減反政策を止めるタイミングが遅かった。
2、高齢化した農業従事者の大量廃業により耕作放棄が進んだ。
3、米作の大規模化、企業化などを実現する規制緩和が遅過ぎた。

という3つの問題による収穫量の低迷が主因だと考えられます。その上で、

4、食味の良いジャポニカ米(短粒米)の魅力が国際社会に「バレて」しまい、優良品が輸出に回るようになった
5、価格上昇のトレンドを読んだ投機筋による買い占めが起きている

という問題が、さらに価格上昇を促していると見ていいでしょう。では、ここ数カ月の高騰は、輸出のせいなのかそれとも投機が原因なのかという問題を考えてみたいと思います。私の住むアメリカ北東部では、確かに日本産の品質の良い短粒米が5キロ単位で出回るようになっています。その価格は19ドルから22ドル程度です。


買い占めが起きていると考えるのが合理的

つまり、日本円で3000円前後となっており、価格は安定しています。現在でも特に大きな値上がりは見られません。ということは、この水準までは輸出要因というのはあるかもしれませんが、5キロで3500円とか、更には5000円というのは、これでは説明がつきません。投機の動きが入っていると考えるのが合理的でしょう。

ただ、投機の動きというのは一過性のものですし、取り締まることは不可能ではありません。問題は、短粒米で5キロ20ドルという価格水準が、今後もグローバル市場での人気拡大が続けば徐々に上がる可能性があることです。同時に仮に日本円がさらに弱含みということになると、国内価格が5キロ3000円という水準より高値となっていくでしょう。

とにかく、米食という日本人の生活の基本中の基本を守るというのは、政治経済の最優先課題のはずです。クールジャパン政策の結果、日本米の人気が上がって輸出が盛んになるのは、それだけを見ればGDPにも貢献する話です。ですが、副作用として短粒米の価格が上昇して、日本の消費者が買い負けるというのでは本末転倒です。

対策としては、明治以来、日系人たちがカリフォルニアの過酷な自然に耐える品種として、短粒米と長粒米を掛け合わせて開発した比較的廉価な中粒米(カルローズ)の輸入という手段があります。食味はやや劣りますが、短粒米とブレンドしたりすれば平均価格を下げることには使えます。既に日本の外食産業などでは、そうした動きが出てきています。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米特使がロに助言、和平案巡るトランプ氏対応で 通話

ビジネス

S&P500、来年末7500到達へ AI主導で成長

ビジネス

英、25年度国債発行額引き上げ 過去2番目の規模に

ビジネス

米耐久財受注 9月は0.5%増 コア資本財も大幅な
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 4
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 5
    ミッキーマウスの著作権は切れている...それでも企業…
  • 6
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 7
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 8
    ウクライナ降伏にも等しい「28項目の和平案」の裏に…
  • 9
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 10
    これをすれば「安定した子供」に育つ?...児童心理学…
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
  • 5
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 6
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 7
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 8
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story