コラム

証人喚問で共和党を蹴散らしたヒラリーの、残された「死角」とは

2015年10月27日(火)17時20分

ベンガジ事件に関する下院公聴会でヒラリーは完全な「勝利」を収めた Jonathan Ernst-REUTERS

 先週22日、ヒラリー・クリントン氏は「ベンガジ事件」に関する下院調査委員会に証人として召喚されました。この委員会は、2012年9月11日にリビアのベンガジにあったアメリカ領事館で、派遣されていたクリストファー・スチーブンス大使ら職員4人が、武装勢力の襲撃を受けて殺害された事件の調査を目的としています。

 この事件に関しては、発生直後から当時国務長官として外交の責任者だったヒラリーの責任追及が野党・共和党によって執拗に続いていました。例えば、2013年1月には有名な「上下両院合同の調査委員会」が開催され、ジョン・マケイン上院議員(共和)などの大物政治家が代わる代わるヒラリーを攻撃したのです。

 その13年の証人喚問では、ヒラリーは感情的になって声を荒げるなど失点を重ねてしまい、疑惑を完全に払拭することはできませんでした。さらに15年になって、ヒラリーは国務長官在任当時に、自宅に設置した私用のメールサーバを使って公務をこなしていたという疑惑が発覚しています。

 下院共和党としては「13年の喚問で疑問が残った」こと、そして「メールサーバ疑惑に伴ってヒラリーの膨大な電子メールの記録に関して国政調査権を発動できるようになった」ことから、あらためて調査委員会を組織してヒラリー本人の喚問を実施したのです。

 先週の喚問は、朝10時に質疑が始まり、途中2回の休憩をはさんで夜9時まで連続して行われました。述べ11時間におよぶ長丁場となったのですが、その結果はヒラリーの「完勝」でした。彼女は、基本的にすべての質問に答えて疑念の払拭に成功したばかりか、自身のカリスマ性を誇示する場として証人喚問を利用しきったと言えるでしょう。

 下院の、特に共和党の委員たちは、これまでも再三問題となっていた点について、代わる代わる質問しました。「スチーブンス大使から襲撃直前に警備強化の要請があったのを国務長官として無視したのではないか?」、「アルカイダ系の武装勢力の攻撃が迫っているという情報があったのに、それを無視してあくまで『平穏なデモ』が発生しているという誤った判断をしたのではないか?」といった論点です。

 では、11時間にわたってそのような追及を受けたにもかかわらず、どうしてヒラリーは「勝利」できたのでしょうか?

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ウクライナ紛争は26年に終結、ロシア人の過半数が想

ワールド

米大使召喚は中ロの影響力拡大許す、民主議員がトラン

ワールド

ハマスが停戦違反と非難、ネタニヤフ首相 報復表明

ビジネス

ナイキ株5%高、アップルCEOが約300万ドル相当
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足度100%の作品も、アジア作品が大躍進
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...どこでも魚を養殖できる岡山理科大学の好適環境水
  • 4
    素粒子では「宇宙の根源」に迫れない...理論物理学者…
  • 5
    ジョンベネ・ラムジー殺害事件に新展開 父「これま…
  • 6
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 7
    ノルウェーの海岸で金属探知機が掘り当てた、1200年…
  • 8
    ゴキブリが大量発生、カニやロブスターが減少...観測…
  • 9
    「個人的な欲望」から誕生した大人気店の秘密...平野…
  • 10
    【投資信託】オルカンだけでいいの? 2025年の人気ラ…
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 4
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 5
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 6
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 7
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 8
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 9
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 10
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    兵士の「戦死」で大儲けする女たち...ロシア社会を揺…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story