コラム

安倍首相はダボスで何を言ったのか?

2014年01月28日(火)10時59分

 このイルカ漁の問題に関しては、あくまで日本の国内問題であり、賛否両論があっていいのだと思います。ドキュメンタリー映画が有名になったり、ケネディ大使が発言したりという「現象」はありますが、あくまで日本では多様な議論がされていれば良いのだと思います。ですが、ある種のセレブ知識人である「大使」とは「一国の首相」の発言の重みは異なります。

 安倍首相が今回CNNでこのイルカの問題に触れたのは、全くもって「不必要」であるばかりか、この番組の流れとしても、またダボスでの「第一次大戦前」発言との「文脈」を考えれば、完全に小野洋子さんの懸念が当てはまってしまうように思います。というのは、中国の台頭に対して積極的に「ケンカを買う」という安倍首相のイメージに、「イルカ漁擁護発言」が重なってしまうからです。これでは、外交上も、日本の「ソフトパワー」を発揮するためのPR戦略上もマイナスこそあれ、プラスになることはありません。

 ちなみにCNNで安倍首相は、わざわざ「日の丸」を背景にTVに映させていました。また終始、秘書(?)の方をチラチラと見ており、肝の座らない弱々しい印象を与えていました。日の丸はもしかしたら首相サイドから頼み込んだのかもしれませんが、CNNの画像では落ち着きのない首相の挙動とあいまって、「国家に依拠し、国家の力を背景に喋る人物」という「脆弱性」を示す「失敗演出」であったと思います。

 安倍首相のダボスでのPR活動は、以上の点から見てマイナスがプラスを大きく上回るものであったと考えられます。政権として厳しく反省していただきたいと考えます。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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