コラム

安倍首相訪米、「ジャパン・イズ・バック」の違和感

2013年02月25日(月)13時15分

 日米首脳会談は、TPP(環太平洋経済連携協定)に関して落とし所に行けたこと、会見省略という奇策により、安倍首相の「タカ派的性格への米メディアの追求シーン」を回避できたことなどにより、実務的にプラス・マイナスの採点をするならば、今回は成功であったと言えるでしょう。

 ただ、折角の首脳会談であるにも関わらず、アメリカの一般のメディアを通じたアメリカ世論へのメッセージ発信ということでは、ほとんど成果がありませんでした。こうしたことが繰り返されることで、アメリカ社会における「日米同盟」の意味合いが、「専門家や事情通にしか関係のない秘められた存在」ということになって行くのであれば、それは両国に取って良いことではないと私は懸念します。

 同じように、これは少々重要な問題ですが、中国に対するメッセージ発信の問題です。尖閣や東シナ海、南シナ海をめぐる問題に関するメッセージは、安倍、オバマ両首脳ともに適正な配慮が感じられ、バランス感覚があったように思います。ですが、TPPがいい例なのですが、日米が「開かれた国際ルールに基づく」という価値観を共有して中国に変革を迫るという部分に関しては、安倍首相の会見や講演では出ていましたが、両国が共同でメッセージ発信ということにはならなかったように思います。これも非常に残念であったと思います。

 それとは別に、安倍=オバマ会談を中心とした一連の首相訪米の日程の中で、やや細かいことではありますが、気になったことがあるので書き留めておきます。

 1つは、ワシントンのシンクタンクCSIS(戦略問題国際研究所)における講演のタイトルです。当日の安倍首相の英語では『Japan is Back!』また、官邸のホームページにある邦題では、『日本は戻ってきました。』というのが標題であり、要するに「安倍総理自身が政権の座に戻ってきた」ということと、日本が「親米のポジションに」また「経済の復活するような方向へ」戻ってきたということ を「引っ掛けて」言いたかったのだと思います。

 私が引っかかったのは、これでは、まるで日本の民主党政権時代は日米関係は悪かったような言い方だということです。確かに鳩山政権の際には、沖縄問題での迷走がありましたが、問題の困難さは変わっていないわけです。沖縄問題の困難なニュアンスは、ルース大使とオバマ大統領の両名はよく認識しているわけで、安倍政権になったから「大丈夫です」的な胸の張り方は軽率に聞こえます。また、野田政権当時はTPPをはじめとして、オバマ政権との政策面でのすり合わせは決してダメだったわけではないので、この点も含めて「ジャパン・イズ・バック」と言われても違和感があります。

 経済に関しては、円安と円建てで見た東京株の上昇があっただけで、実体経済という意味ではプラスの指標はほとんど出ていません。こちらに関しても「復活宣言」は時期尚早で、やや軽率な印象を与えました。

 もう1つは、更に細かい話になりますが、バッジの問題です。拉致問題の青いバッジも、五輪招致のバッジも安倍首相の信念に関係しているのですから、ダメだとは言いません。ですが、日米首脳会談の席で背広の襟に2つのバッジをつけているというのは、どうしても軽く見えるのです。現代の世の中では、勲章をたくさんつけた王族や軍人は「バカみたいに見える」というのが国際的な常識です。むしろシンプルな背広にネクタイというのが好感を得るのです。その意味で、この2つのバッジが縦に並んだファッションというのは疑問が残ります。

 まあ、オバマにしても、昔は「自分の愛国心はバッジに示すような目に見える安っぽいものではない」として、星条旗バッジをつけていなかったのですが、「バッジに愛国心を感じるような庶民感情をバカにしたエリート意識こそオバマの欠点」だと他ならぬヒラリー・クリントンに攻撃されて以来、「意地になってつけている」ようなところがあり、今回の首脳会談でもつけていましたから、お互い様ということかもしれませんが。

 もう1つ、これは色々な議論があっていいのですが、外交の席上での「自国国旗への一礼」という問題です。首脳会談や講演の後に行われた日本政府主催の記者会見は、マリオットの「ルネッサンス・ワシントンDC・ホテル」で行われたようですが、「ひな壇」の上には首相が会見に応じる演台が置かれ、その後ろには日米両国国旗が並んでいました。

 私が違和感を感じたのは、安倍首相が最近の風潮に従って日の丸に一礼をしたということです。国内的な感覚では、公職にある人間はオートマティックに一礼ということになっているようですが、これを海外でしかも外交の席でやるというのは二重の問題があるように思います。

 まずこの会見は、政府主催のものですが米国や欧州など国外のメディアも招待され、また質問も許されるような場となっていました。そこで、当然に日米両国の国旗が並んでいたのです。そこで安倍首相は日章旗に一礼をしたのですが、勿論、安倍首相はアメリカ人ではないので星条旗には一礼はしなかったわけです。日本の国内的な観点から考えると、別に不思議ではないのかもしれませんが、これが外交の場であるとなると、相互の国旗に敬意を払うのは当然であり、そこに差がつくのは不自然です。

 例えば、日本にオバマが来て日米の国旗が並んでいる場で、オバマが星条旗にだけ敬意を払ったら(お辞儀の習慣はないわけですが)日本人としてはやや不快に思う可能性はあるでしょう。外交儀礼というのはそのような形式的な偏りを排除する「様式美」を追求する場であり、こうした席上で安倍首相が「自国国旗にのみ一礼」をするというのは、そのような様式美には反すると思うのです。

 もう1つの理由は、これはアメリカ的な発想かもしれませんが「国旗というモノに拝跪する」という行動を見ると、どうしてもその人物像が「小さな人物」に見えてしまうのです。3・11の直後に、CNNでは毎日のように枝野幸男官房長官(当時)の会見を中継していました。勿論、福島第一原発の事故に対する関心が高かったからです。枝野氏は登壇するたびに国旗に一礼していたのですが、それを見るとどうしても「本当の真実を明らかにし、本質的な解決のために自身の知力と人格力の総てを使おうという個人」というイメージよりも「政府という組織の中で組織の論理の束縛を受け、真実よりも組織に奉仕する人物」という「ちっぽけな人間」という印象になってしまうのです。

 勿論、そこには「お辞儀」の習慣がないという文化の違いもありますが、それを差し引いても人間が立派に見えるのではなく、小さく見えるというのは行動として効果的ではありません。もしかしたら、民主党の政治家は「イヤイヤ」やっていたので、そういう印象になるのかとも思っていましたが、安倍首相のように自然に振舞われても、やはり「小さな人物」という印象になるのは避けられなかったように思います。

 いずれにしても、今回の会談は成功か失敗かといえば、成功であったと思いますが、その閉鎖性や発するメッセージの弱さということ、また外交儀礼上のキチッとしたケジメという意味合いでは、迫力に欠けていたように思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)、『アメリカモデルの終焉』(東洋経済新報社)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

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