コラム

中央銀行は馬鹿なのか

2016年05月02日(月)12時22分

追加緩和を見送った黒田東彦・日銀総裁 Thomas Peter-Reuters

 日本銀行が先週の政策決定会合で、金融政策の現状維持を決定した。これが市場をパニックに陥れた。

 発表直後から、日経平均株価は大暴落、前日比240円高の水準から660円安に落ち込み、一瞬で1000円近い下落となった。為替も112円近い水準から109円割れ、3円以上一気に円高になった。

 日銀のサイトはダウン。何が起きたのか、情報を求めて阿鼻叫喚となったトレーダー達が殺到し、サイトが閲覧できない状態に陥り、トレーダー達のパニックは加速。これが下落に拍車をかけた。

 間抜けな私の同僚は、昼を食べようと私を誘いに来たが、私が、いまちょっと手が離せない、情報確認と分析、ブログも書かないといけないと、パソコンの画面から目を離さずに断ると、何かあったんですか?と間抜けなまま彼は尋ね、私は、株が1000円近く暴落している、と言うと、え?株価?上がってますよ? 私は、いや今暴落したんだ、と答えるヒマもなく答えると、彼は依然のんきそうに、え?iPad更新しても、株価上がってますよ。と不思議そうにしつこく尋ねる。いや、昼休みだから、先物が動いている。もうすぐ開いたら暴落する。と面倒になりつつも答えると、あらま、いったい何があったんですか?と聞く。日銀が緩和しなかったんだ。現状維持。みんな緩和があると思っていたから、パニックだ、と答える。

市場はパニックなのに

 私の切迫感を依然理解しない彼は、きょとんとして、みんなそんなに期待していたんですか? とおっとりとした質問を続ける。それどころでない私は、そうだよ、だから、ここ1週間で株は1000円上がり、3円も円安になったじゃないか。と声を荒げながら答える。ほんまですなあ。我々の革ジャンの個人輸入も遠のいてがっかりしてたんですよ。でも、金融緩和ってそんなに効果があるんですか。と彼。

 この究極の間抜けな質問に、私はついにマウスを置き、パソコンから目を離して、部屋の入り口に突っ立っていた彼を見上げた。うんざりしつつ、諦めて、私は説明を始めた。「みんな金融緩和を待っていた。もちろん影響は大きい。だからバーズカとか馬鹿馬鹿しいニックネームをつけているんだ。効果がある理由は......。」

 まてよ。金融緩和には効果がない、というのが俺の立場ではなかったか。実体経済には意味がない。もともと効果は小さいのに、やり過ぎで中毒症状、むしろマイナスだ。だから、緩和は止めるべきだ。現実的には、今は少なくともまず緩和拡大を打ち切るべきだ。まず、投資家達の期待が膨らむのを抑え、それをゆっくりとしぼませて軟着陸し、そこからゆっくりと調整していく。ええと、そうなると、ここで追加緩和があれば、実体経済はマイナスになる。それなら、なんで株は、緩和を期待して上がるんだ? 為替はなぜ円安になるんだ?

プロフィール

小幡 績

1967年千葉県生まれ。
1992年東京大学経済学部首席卒業、大蔵省(現財務省)入省。1999大蔵省退職。2001年ハーバード大学で経済学博士(Ph.D.)を取得。帰国後、一橋経済研究所専任講師を経て、2003年より慶應大学大学院経営管理研究学科(慶應ビジネススクール)准教授。専門は行動ファイナンスとコーポレートガバナンス。新著に『アフターバブル: 近代資本主義は延命できるか』。他に『成長戦略のまやかし』『円高・デフレが日本経済を救う』など。

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