最新記事
シリーズ日本再発見

名店「すきやばし次郎」を築き上げた小野二郎と息子・禎一の職人論

2019年11月08日(金)17時35分
ニューズウィーク日本版ウェブ編集部

94歳になった今も現役の小野二郎氏(左)と、その姿を近くで見続けてきた長男の禎一氏(『「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年』より。撮影:戸澤裕司)

<12年連続のミシュラン三ツ星――。世界にその名を知られる銀座の鮨店は、7歳で奉公に出て修業を始めた小野二郎が、40歳の時に開店した。職人とは何か。なぜカーレーサーを目指そうとしていた息子は店を受け継ごうと決意したのか>

2014年4月、国賓として来日したバラク・オバマ米大統領(当時)が、安倍晋三首相とともに東京・銀座の鮨店を訪れたことが大きなニュースになった。当日の銀座界隈に厳重警戒態勢が敷かれたことや、オバマ氏が「半分残した」だの「『人生で最高の鮨』と語った」だのといったことまでがメディアを賑わせた。

店の名は「すきやばし次郎」。築60年近くになるというビルの地下1階に、店主の小野二郎氏が店を構えたのは1965年のことだ。以来54年。1925年生まれの二郎氏は今年で94歳になったが、今でも現役で鮨を握っている。その傍らに立つのは、長男の禎一(よしかず)氏だ。

頑固な職人気質で知られる二郎氏は、その一方で、鮨の「神様」と崇められるほどの存在だ。そんな父親の姿を誰よりも近くで、誰よりも長く見てきた禎一氏は、一体どんな思いで父の後ろ姿を見つめ、その店を受け継ごうと決意したのか──。

『「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年』(根津孝子著、CCCメディアハウス)は、禎一氏や二郎氏などへのインタビューを通して、長年にわたって名店としての誉れを守り続けてきた根底にある職人論と、それを次世代へと継承していく親子の物語を描き出している。

book191108sukiyabashijiro-2.jpg

小野禎一氏(『「すきやばし次郎」 小野禎一 父と私の60年』より。撮影:戸澤裕司)

なぜ店名を「すきやばし二郎」にしなかったか

「すきやばし次郎」の名が知られるようになったのは、何もアメリカの大統領が来店したからではない。開店から8年後の1973年には、歴史ある百貨店「日本橋高島屋」に支店を出していることからも分かるように、既に一定の評判を得ていた。

その後、バブル景気の中で「社用族」たちがこぞって会社の経費を落としていった時代を経て、2007年、日本で初めて刊行された『ミシュランガイド』で三ツ星を獲得、その名声が広く知れ渡ることとなる。以後、12年連続の三ツ星だ(最新版の『ミシュランガイド東京2020』は今年11月29日に刊行予定)。

この店を一代で築き上げた小野二郎氏は、生粋の江戸っ子――というわけではない。実は静岡生まれ。7歳で親元を離れ、割烹料理屋に奉公に出たことが、職人としてのスタートだった。当時は、一人で店の掃除を行ってから学校に通う、という日々を送っていたという。

東京に移って修業を続けた後、40歳の時にようやく独立して「すきやばし次郎」を開店。その腕前は広く高く評価され、2005年、卓越した技能者を表彰する「現代の名工」に選出されたほか、2014年には黄綬褒章(「業務ニ精励シ衆民ノ模範タルベキ者」に授与される)を受章している。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イスラエルがイラン再攻撃計画か、トランプ氏に説明へ

ワールド

プーチン氏のウクライナ占領目標は不変、米情報機関が

ビジネス

マスク氏資産、初の7000億ドル超え 巨額報酬認め

ワールド

米、3カ国高官会談を提案 ゼレンスキー氏「成果あれ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツよりコンビニで買えるコレ
  • 2
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低く、健康不安もあるのに働く高齢者たち
  • 3
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリーズが直面した「思いがけない批判」とは?
  • 4
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦…
  • 5
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 6
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 7
    米空軍、嘉手納基地からロシア極東と朝鮮半島に特殊…
  • 8
    週に一度のブリッジで腰痛を回避できる...椎間板を蘇…
  • 9
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 10
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 8
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中