コラム

為替介入の実現可能性と限界──日本経済にとっての無視できないリスクとは?

2022年09月20日(火)18時50分

日本経済にとっての無視できないリスクとは?...... Eugene Hoshiko/REUTERS

<世界的にインフレが高まる中で、日本の状況をどう考えればいいのか......>

FRB(米連邦制度準備理事会)による金融引き締め期待の強まりを背景に、為替市場で円安ドルが進み、9月8日、13日に一時1ドル145円付近まで円安に動く場面があった。ユーロドルも9月に入り1ユーロ=1.00ドルを下回る20年ぶりのユーロ安ドル高が進むなど、高インフレと通貨安への対応で、ECB(欧州中央銀行)も、FRBに追随して大幅な利上げを余儀なくされている。

欧州は、経済の下振れリスクが大きい中で、米国同様に高インフレへの対処で、大幅利上げを行わざるを得ない非常に厳しい状況である。一方で、世界的にインフレが高まる中で、2%付近のインフレ率で安定している日本は、欧州などを比べると相対的にはかなり恵まれた状況と位置付けられる。

日本でも円安が進んでいるので、これまでメディアで大きく報じられてきた。大きく円安が進むと、「円安が止まらなくなる」「日本経済衰退の象徴」、などという極論や主張が増えるのはいつもの光景だろう。もちろん、安定していた為替相場の変動率が大きくなると、これが企業活動の障害になるなどの弊害があるのも事実である。

黒田総裁の発言は従来の発言と同様だ

ただ、インフレ率は安定して低いままなので、インフレ抑制を最優先にしなければいけない米欧と、日本の状況は大きく異なる。これは、金融財政政策を状況に応じて、大胆に繰り出せるという意味で、他国にはない強みがあるということでもある。円安は予想外に進んでいることそのものは、経済成長を高めて脱デフレ完遂を促すので、経済全体ではプラス面の効果が大きい。こうした考えは日本銀行も依然持っているとみられ、そしてほとんど揺らいでいないように思われる。

こうした中で、岸田首相と面談した後の黒田日銀総裁の発言が報じられた9月9日に、為替市場で円高に動いた場面があった。また、日銀による「レートチェック」が行われたと報じられた15日にも円高に動いた。日本側の報道によって為替市場において円高に動いたわけだが、これらの材料は当局の経済政策の転換を意味し、円安トレンドを変えるだろうか。

実際には、9日の黒田総裁の発言は「急激な為替変動が、将来の不確実性を高めるので好ましくない」との従来の発言と同様である。この発言を額面どおりうけとめれば、円安の水準は問題とはなっていないとみられ、為替市場をターゲットにして金融政策が変わる可能性は低いだろう。「黒田総裁が為替相場について言及」というヘッドラインに反射的に反応したというだけではないか。

また、レートチェックについても、担当当局による為替介入が近づいていると解説されている。それは事実かもしれないが、実際に為替介入が行われるかどうかは不明であり、日本側の口先介入を一段と強めたという位置づけだろう。

プロフィール

村上尚己

アセットマネジメントOne シニアエコノミスト。東京大学経済学部卒業。シンクタンク、証券会社、資産運用会社で国内外の経済・金融市場の分析に20年以上従事。2003年からゴールドマン・サックス証券でエコノミストとして日本経済の予測全般を担当、2008年マネックス証券 チーフエコノミスト、2014年アライアンスバーンスタン マーケットストラテジスト。2019年4月から現職。『日本の正しい未来――世界一豊かになる条件』講談社α新書、など著書多数。最新刊は『円安の何が悪いのか?』フォレスト新書。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

インフレ小幅下振れ容認、物価低迷に至らず=シュナー

ビジネス

エネルギー貯蔵、「ブームサイクル」突入も AI需要

ワールド

英保健相、スターマー首相降ろし否定 英国債・ポンド

ビジネス

ロシア、初の人民元建て国内債を12月発行 企業保有
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:世界最高の投手
特集:世界最高の投手
2025年11月18日号(11/11発売)

日本最高の投手がMLB最高の投手に──。全米が驚愕した山本由伸の投球と大谷・佐々木の活躍

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評家たちのレビューは「一方に傾いている」
  • 2
    ギザのピラミッドにあると言われていた「失われた入口」がついに発見!? 中には一体何が?
  • 3
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    炎天下や寒空の下で何時間も立ちっぱなし......労働…
  • 6
    冬ごもりを忘れたクマが来る――「穴持たず」が引き起…
  • 7
    コロンビアに出現した「謎の球体」はUFOか? 地球外…
  • 8
    ファン激怒...『スター・ウォーズ』人気キャラの続編…
  • 9
    「流石にそっくり」...マイケル・ジャクソンを「実の…
  • 10
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 4
    『プレデター: バッドランド』は良作?駄作?...批評…
  • 5
    「座席に体が収まらない...」飛行機で嘆く「身長216c…
  • 6
    ドジャースの「救世主」となったロハスの「渾身の一…
  • 7
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2…
  • 8
    筋肉を鍛えるのは「食事法」ではなく「規則」だった.…
  • 9
    「路上でセクハラ」...メキシコ・シェインバウム大統…
  • 10
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story