コラム

スタバを迎え撃つ中華系カフェチェーンの挑戦

2024年01月30日(火)17時52分

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上海のラッキンコーヒーの店内にて。醤香ラテで酔いが......(筆者撮影)

一方、ラッキンではラテが15元(300円)とだいぶ安いうえに期間限定のキャンペーンがあったりもする。客単価でいうとスターバックスが38.57元であるのに対してラッキンは17.6元、後述するコッティコーヒーは11.45元と、大きく異なる(『21世紀経済報道』2023年9月25日)。スターバックスのお客さんは店内で優雅に過ごすことを目的に来るのに対して、ラッキンは店内で飲む人とテイクアウトする客が半々ぐらいのようである。上の図2にみるようにラッキンの場合には「パートナーシップ店」が多いが、この中には例えばコンビニの店舗の一角にラッキンのコーナーを設けて、もっぱらテイクアウト客向けにコーヒーを販売するところも含まれる。

お酒入りの新メニューも

ラッキンは新メニューの開発も進めており、とりわけ2023年9月に発売された「醤香ラテ」は大きな話題を呼んだ。これは中国で最高級酒とされる茅台酒(マオタイ酒)のメーカーと共同開発したもので、カフェラテのミルクの中にマオタイ酒を混ぜ込んでいる(『21世紀経済報道』2023年9月5日)。本来の価格は35元(700円)だが、私が2023年11月に上海で買ったときの値段はキャンペーン中ということで18元(360円)だった。

マオタイ酒は中国の蒸留酒の中でも匂いが強烈な「醤香型」に属するので、まさかコーヒーと合うまいと思ったが、飲んでみると意外にかぐわしかった。ただ、飲み終わる頃になると酒の匂いがだんだん強くなってきて、酔ってしまうのではないかと心配になるほどだった。

醤香ラテ、糟香珈琲、黒暗時刻、覚醒年代

「醤香ラテ」がはたしてラッキンコーヒーの売り上げにどれだけ貢献したのかは疑問ではあるものの、大きな話題となり、あとに続こうとする企業も出てきた。上海の街を歩いていたら「J9コーヒー」というお店で「糟香珈琲」を売り出していた。「糟」というのは酒粕のことなので、甘酒の香りがするのかもしれない。

さらに、中国共産党の第1回大会(1921年)が開かれた場所を訪れたら、その会場となった古い建物の正面に「一珈琲」というカフェがあった。この店は第1回大会記念館のノベルティグッズを販売している会社が運営している。店の前には「上海で最も赤いコーヒーを飲んでらっしゃい(来一杯沪上最“紅”咖啡)」と書いてある。解説しても面白くないのでやめておくが、オヤジギャグの連発である。お値段を見ると、ブラックコーヒーとココアを混ぜた「黒暗時刻」が18.40元、つまりアヘン戦争開戦の年、ブラックコーヒー「覚醒年代」が19.21元、つまり中国共産党の創立年、と由緒ある値段設定になっている。

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中国共産党第1回大会会場の正面にある「一珈琲」(筆者撮影)

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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