コラム

イノベーションの街、深セン

2016年07月25日(月)16時40分

 深センの際立った特徴はここが移住者によって形成された都市だということでしょう。今でも深セン市の戸籍を持つ人は人口1087万人のわずか3割強でしかなく、多くの住民は仕事がなくなれば深センを去ることを考えなければなりません。そうしたしがらみのない根無し草たちで構成される街だからこそ、中国の他の都市にはない自由な空気があります。また、「ゲリラ携帯電話」の生産・販売が盛んになったことが示すように、中央政府からの規制が深センにはいま一つ行き届かないところがあります。深センはもともと経済改革の実験都市とされていた経緯から、さまざまな規制の自由化において常に全国の先頭を走ってきました。社会的紐帯からの自由、および政府による規制や干渉からの自由がここにはあり、それこそが深センをイノベーションの首都に押し上げたもっとも重要な要因だと考えられます。

 また、深センが珠江デルタという「世界の工場」の中心にあり、さまざまな部品、機械加工や組立サービス、設計サービスなどを調達する上できわめて便利な場所だということも、新製品を開発するには好適な条件だと言えます。最近では新規に創業しようとする人たちに金融やさまざまなサービスを提供して創業を促進しようという民間企業や公的機関も深センには増えています。そうした創業に好適な環境を利用しようと中国からだけでなく、海外からも起業を目指す人たちが深センに来ているそうです。深センからどんな目新しいモノやサービスが飛び出してくるのか、期待してみていたいと思います。

プロフィール

丸川知雄

1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム: 大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など著書多数

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