CIAに潜む中国二重スパイ
中国各地を広く旅した経験のある人材を採用できないとなると、CIAは中国問題のアナリストをゼロから育てなければならない。中国本土で使われている言語の数は多いが、標準語と広東語だけでも「初歩」以上のレベルまで習得するには、たいてい1年以上かかる。
CIAのディーン・ボイド報道官は「リスクの高い経歴の持ち主には、それだけ厳しい審査が待っている」ことを認めた。しかしCIAは「そうした個人が当方のセキュリティー基準を満たせば採用してきたし、今後もそうする」とも語った。
要するに、中国に長く滞在していた人物でも、厳重な審査に合格すれば採用するということ。しかしその審査には、長ければ2年もかかるのだ。
おかげで優れた候補者を採用し損ねているという批判も根強い。「過去に中国との関係があると、履歴書はゴミ箱行きだ。CIAは国家安全省が組織に侵入し、学生を取り込んでいるという被害妄想にとらわれているからだ」と、ある元CIA高官は匿名を条件に本誌に語った。
妄想ではないスパイ疑惑
ここ数十年、国家安全省は主に中国系アメリカ人、特に国防、情報機関、機密に関連する業界で働く人々を取り込もうとしてきた(そのせいか、FBIは中国系アメリカ人、とりわけ中国と深い関わりのある学者や科学者に不当に目を付ける傾向があるとの批判もある)。
CIAのセキュリティー担当者が警戒を強めたのは、シュライバー事件で国家安全省の新たな人材調達法が見えてきたからだ。中国の情報部はCIAに非アジア人を潜入させようとしている、とワイルダーらは言う。
消息筋によると、胡錦濤(フー・チンタオ)政権時代に国家安全省の活動の在り方がトップレベルで議論された。中国の経済と財政担当幹部らは、最大の貿易相手国であるアメリカとの対立を深めることは避けるべきだと主張した。だが情報担当と軍幹部は、超大国になった中国はアメリカに対してもっと強い姿勢で臨むべきだと主張し、議論に勝った。
「近年の大きな変化は、以前にも増して、全てのアメリカ人が標的になっていることだ」とワイルダーは言う。「国家安全省の担当者は欧米をよく知っており、言語能力も以前より高い。彼らは中国に来る白人学生や旅行者を簡単に勧誘できる」
FBIは14年に、シュライバー事件をドラマ化した動画『ゲーム・オブ・ポーンズ』をウェブサイトで公開している。中国にいる若いアメリカ人への警告として制作されたものだが、アメリカのスパイ・ハンターの早過ぎる勝利宣言とも言える。