コラム

崖っぷちに追い込まれる英国の自動車産業が巻き込まれた、アメリカ対EU「緑の貿易戦争」

2023年01月26日(木)18時55分

インフレ抑制法の衝撃

それから1年、年30万台分のEV用バッテリーの生産を目指したブリティッシュボルトは資金繰りに窮し、あえなく経営破綻した。日産サンダーランド工場近くではリーフ用バッテリー工場に続いて、昨年12月、中国の再生可能エネルギーグループ、エンビジョンAESCによるギガファクトリー建設が始まった。しかし年10万台分を生産するに過ぎない。

ジョー・バイデン米大統領は気候変動法案のインフレ抑制法を成立させ、ゼロエミッション車、陸上・洋上風力、分散型太陽光、持続可能な航空燃料、効率的な省電力建築など、脱炭素化を支援するため3680億ドル(約47兆6000億円)を投じる。EVだけでなく、原材料、部品、バッテリーも「メイド・イン・USA」が最優先だ。

EUも手をこまぬいてはいない。英国も米国対EUの「緑の貿易戦争」の火の粉をかぶることになる。「何か手を打たなければ座して死を待つのみだ。投資は最も競争力のあるところに向かう。エネルギーコスト、インフラ投資を呼び込むインセンティブ、適切な人材の確保、そしてサポートする枠組みだ。政治や規制の安定が求められる」とホーズ氏は語る。

「英国の自動車産業はレベルアップ(地域格差の平準化)、ネットゼロ、グローバルブリテンという野心に不可欠だ。先進的な自動車製造のため世界で最も競争力のある場所の 1 つとして位置付けるための枠組みが求められる。保護主義の脅威に対処し、ゼロエミッション技術への投資を奨励する財政措置が必要だ」と言うのだが、英国の敗色は濃い。

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

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