コラム

苦しくとも、日本を守ってきた「前提」がついに崩れる...過去最大「貿易赤字」の意味

2022年08月02日(火)19時47分
円安イメージイラスト

ANDRII YALANSKYI/ISTOCK

<今年前半の貿易収支は過去最大の赤字に。経常収支の赤字転落も現実味を増すなかで、産業構造の転換が待ったなしの状況となっている>

今年前半の貿易収支が半期としては過去最大の赤字になった。資源価格の高騰や円安によって輸入金額が増えたことが原因であり、この傾向は当分、続く可能性が高い。貿易赤字の恒常化を前提にした体制づくりが求められる。

財務省が発表した2022年上半期(1~6月)の貿易統計は、輸出が45兆9378億円、輸入が53兆8619億円で、輸出から輸入を差し引いた貿易収支は7兆9241億円の赤字だった。原油価格や食糧価格の高騰に加え、ロシアによるウクライナ侵攻後は円安が進んでおり、これが輸入金額を押し上げた。原油高や円安がすぐに是正されるとは考えにくく、このままの状態で世界経済が推移すれば、通年での貿易収支も赤字が予想される。

日本は戦後、一貫して輸出が輸入を上回る貿易黒字の状態が続いてきた。日本メーカーの競争力が低下した1990年代以降、貿易黒字は減少に転じたものの、蓄積した貿易黒字を使った対外投資収益(所得収支)の増加によって、全体の収支である経常収支も黒字を維持してきた。

日本の購買力が著しく低下しているにもかかわらず、日本円が一定の価値を維持し、膨大な政府債務を抱えつつも国債の大量発行が可能だったのは、全ては経常収支が黒字だったからである。

今のところ日本は、年間約20兆円の所得収支があるので、この範囲までであれば、貿易赤字が拡大しても経常収支の黒字を維持できる。だが今のペースで貿易赤字の拡大が続いた場合、いよいよ経常収支が赤字転落する可能性が見えてくる。

経常赤字と円安の悪循環

マクロ経済における貯蓄投資バランス論では、国内の貯蓄は、財政収支と経常収支、企業の設備投資に案分される。日本政府の財政赤字は削減の見通しが立たない状態であり、高齢化によって貯蓄率が低下した場合、設備投資が同じなら、経常赤字になるしか式をバランスさせる方法がない。

経常収支が赤字になると円安が進みやすくなり、さらに国際収支を悪化させる負のスパイラルに陥る可能性もある。日本の財政問題については、財政悪化のリスクが高いとする立場とそうではないとの立場で意見の相違があったが、リスクが低いとする主張の論拠となっていたのは多くが経常黒字であり、これが成立しなくなった場合、一連の主張は根拠を失ってしまう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

G7外相、イスラエルとイランの対立拡大回避に努力=

ワールド

G7外相、ロシア凍結資産活用へ検討継続 ウクライナ

ビジネス

日銀4月会合、物価見通し引き上げへ 政策金利は据え

ワールド

アラスカでの石油・ガス開発、バイデン政権が制限 地
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:老人極貧社会 韓国
特集:老人極貧社会 韓国
2024年4月23日号(4/16発売)

地下鉄宅配に古紙回収......繁栄から取り残され、韓国のシニア層は貧困にあえいでいる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    止まらぬ金価格の史上最高値の裏側に「中国のドル離れ」外貨準備のうち、金が約4%を占める

  • 3

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の衝撃...米女優の過激衣装に「冗談でもあり得ない」と怒りの声

  • 4

    中国のロシア専門家が「それでも最後はロシアが負け…

  • 5

    価値は疑わしくコストは膨大...偉大なるリニア計画っ…

  • 6

    中ロ「無限の協力関係」のウラで、中国の密かな侵略…

  • 7

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 8

    休日に全く食事を取らない(取れない)人が過去25年…

  • 9

    「イスラエルに300発撃って戦果はほぼゼロ」をイラン…

  • 10

    日本の護衛艦「かが」空母化は「本来の役割を変える…

  • 1

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 2

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 3

    NASAが月面を横切るUFOのような写真を公開、その正体は

  • 4

    犬に覚せい剤を打って捨てた飼い主に怒りが広がる...…

  • 5

    攻撃と迎撃の区別もつかない?──イランの数百の無人…

  • 6

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 7

    アインシュタインはオッペンハイマーを「愚か者」と…

  • 8

    天才・大谷翔平の足を引っ張った、ダメダメ過ぎる「無…

  • 9

    帰宅した女性が目撃したのは、ヘビが「愛猫」の首を…

  • 10

    ハリー・ポッター原作者ローリング、「許すとは限ら…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    浴室で虫を発見、よく見てみると...男性が思わず悲鳴…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story