コラム

日本経済は「貯蓄があるから大丈夫」...勘違いする人が見落としている「現実」

2022年01月25日(火)17時43分
現金・預金(イメージ画像)

KAZUMA SEKI/ISTOCK

<日本の家計や企業が保有する貯蓄の額はたしかに膨大だが、その金を「有効活用」して経済を立て直せば大丈夫などと簡単に考えない方がよい>

家計が保有する金融資産が2000兆円に迫る勢いとなっている。このうち現金・預金は1072兆円と全体の半分を占めており、これは各国と比較すると突出して高い水準である。一部からは、現預金として退蔵されているマネーを有効活用すべきとの声も聞かれるが、現実にマネーが好きに使える状態で余っているわけではない。

日本銀行の資金循環統計によると、2021年9月末時点における家計の金融資産は過去最高の1999兆8000億円だった。株価上昇による有価証券の価値増加に加え、政府が配った給付金の影響から現預金も大幅に増えた。

日本は金融資産に占める預貯金の割合が高いことで知られ、現金に偏っている金融資産が成長にマイナスの影響を与えているとの指摘がある。近年ではコロナ給付金の是非をめぐる議論が盛り上がったこともあり、増加した現預金を成長の原資として活用すべきとの声も大きくなっている。

確かに預貯金の比率が高いと、株式など直接金融に資金が回りにくいといった弊害が生じるが、預貯金をそのまま成長投資に充当するのは物理的に不可能である。なぜなら帳簿には預貯金として計上されていても、実際には銀行の金庫にお金は存在してないからである。

最終的に資金を吸収しているのは国債

銀行は資金を貸し出して利ざやを得るのが仕事であり、預かった預金をそのまま遊ばせておくことはしない。本来、預金は企業の融資に回されるはずだが、景気低迷が続く日本では企業の資金需要は低い。最終的に余剰となった資金を吸収しているのは国債であり、結局のところ政府が借り入れによって資金を吸い上げ、政府支出という形で国内にお金をバラまいている。

日本は家計に加えて企業も貯蓄過剰となっており、企業と家計が政府部門の資金不足をカバーしている図式だ。

日銀が国債購入に支払ったお金も、資金需要がないため、金融機関が日銀に預ける日銀当座預金に積み上げられている。もし資金需要が存在するのならとっくに日銀当座預金は取り崩されているだろう。

プロフィール

加谷珪一

経済評論家。東北大学工学部卒業後、日経BP社に記者として入社。野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当する。独立後は、中央省庁や政府系金融機関などに対するコンサルティング業務に従事。現在は金融、経済、ビジネス、ITなどの分野で執筆活動を行う。億単位の資産を運用する個人投資家でもある。
『お金持ちの教科書』 『大金持ちの教科書』(いずれもCCCメディアハウス)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)など著書多数。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米ISM製造業景気指数、4月48.7 関税の影響で

ワールド

トランプ氏、ウォルツ大統領補佐官解任へ=関係筋

ビジネス

物言う株主サード・ポイント、USスチール株保有 日

ビジネス

マクドナルド、世界の四半期既存店売上高が予想外の減
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
特集:英語で学ぶ 国際ニュース超入門
2025年5月 6日/2025年5月13日号(4/30発売)

「ゼロから分かる」各国・地域情勢の超解説と時事英語

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に高く、女性では反対に既婚の方が高い
  • 2
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来が来るはずだったのに...」
  • 3
    タイタニック生存者が残した「不気味な手紙」...何が書かれていた?
  • 4
    ウクライナ戦争は終わらない──ロシアを動かす「100年…
  • 5
    インド北部の「虐殺」が全面「核戦争」に発展するか…
  • 6
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新…
  • 7
    悲しみは時間薬だし、幸せは自分次第だから切り替え…
  • 8
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」では…
  • 9
    クルミで「大腸がんリスク」が大幅に下がる可能性...…
  • 10
    朝1杯の「バターコーヒー」が老化を遅らせる...細胞…
  • 1
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 2
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 3
    MRI検査で体内に「有害金属」が残留する可能性【最新研究】
  • 4
    中国で「ネズミ人間」が増殖中...その驚きの正体とは…
  • 5
    ロシア国内エラブガの軍事工場にウクライナが「ドロ…
  • 6
    日本の未婚男性の「不幸感」は他国と比べて特異的に…
  • 7
    パニック発作の原因の多くは「ガス」だった...「ビタ…
  • 8
    マリフアナを合法化した末路とは? 「バラ色の未来…
  • 9
    使うほど脱炭素に貢献?...日建ハウジングシステムが…
  • 10
    私の「舌」を見た医師は、すぐ「癌」を疑った...「口…
  • 1
    【話題の写真】高速列車で前席のカップルが「最悪の行為」に及ぶ...インド人男性の撮影した「衝撃写真」にネット震撼【画像】
  • 2
    日本史上初めての中国人の大量移住が始まる
  • 3
    日本旅行が世界を魅了する本当の理由は「円安」ではない
  • 4
    健康寿命を伸ばすカギは「人体最大の器官」にあった.…
  • 5
    【心が疲れたとき】メンタルが一瞬で “最…
  • 6
    間食はなぜ「ナッツ一択」なのか?...がん・心疾患・抜…
  • 7
    北朝鮮兵の親たち、息子の「ロシア送り」を阻止する…
  • 8
    【クイズ】世界で最も「半導体の工場」が多い国どこ…
  • 9
    クレオパトラの墓をついに発見? 発掘調査を率いた…
  • 10
    中居正広は何をしたのか? 真相を知るためにできる…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story