コラム

トランプ政権が掲げる「国境税」とは何か(後編)

2017年03月07日(火)12時00分

トランプ政権は共和党が推している「国境調整税」には難色を示している Kevin Lamarque-REUTERS

<消費税(付加価値税)のないアメリカが事実上の非関税障壁にあたる消費税を認めるTPPに抵抗するのは、それなりの整合性がある>

コラム前編はこちら

消費税・付加価値税は今や世界の140の国と地域で採用されている税制ですから、アメリカの貿易相手国のほとんど全てが自国の輸出企業にリベートを渡している状況です。また、トランプ氏は選挙期間中メキシコの付加価値税16%を槍玉にあげて、「メキシコには付加価値税があるのに対して、アメリカにはない、アメリカ製品はメキシコで課税される。自動的に約16%だ。メキシコ製品をアメリカで売る際の税金はない。これは長い間放置されてきた欠陥協定だ」と、他国の消費税・付加価値税は関税との指摘をしています。

他国にあってアメリカにはない、消費税・付加価値税に備わったリベート機能と関税機能による「不公平」に対抗し、それを解消するのがトランプ政権の「国境税」です。ちなみにTPPが真の自由貿易協定であれば、究極的には「関税なし、非関税障壁なし、補助金なし」の1行で済むはずであり、日本の消費税など真っ先に撤廃されるのが筋となります。その意味において、トランプ政権がTPPは真の自由貿易協定に非ずと、永久離脱の大統領令に署名し、より厳しい二国間交渉に切り替えたのには整合性があるわけです。

例えば、現状で(廃止も視野に入れた)消費税引き下げを日本が実施した場合、トランプ政権は大歓迎でしょうし、日本経済にとっては活性化の最大の起爆剤となるでしょう。国民経済の劇的改善と同盟国との良好な関係の構築という少なくとも2つの大きなメリットが得られます。

【参考原稿】フランスが直面した軽減税率「陳情」合戦の不公平

ここのところ大阪の小学校の土地取得問題が物議を醸していますが、衆院解散・総選挙や延長された総裁任期3期9年への立候補を視野に入れ、どこかのタイミングで消費税引き下げを公言すれば、失い欠けている支持率を一気に回復させる可能性も安倍首相としては見逃せないはずです。

未来志向かつ国民経済や社会全体への真摯な眼差しを向ける行政の知り合いもいますので、「行政に関わる全ての人が」と申し上げるつもりはありませんが、今回の土地取得問題の一連の経緯では日本の行政のいい加減さを露呈したことにもなります。検証がこれからとしても、わけのわからない陳情だけで一部への利益誘導を行う中で税金を使い国民の財産を勝手に毀損しておいて、その一方で国民には広く消費税増税を求めるなど許しがたいというのが国民感情ではないでしょうか。国内外の情勢を鑑みれば消費税増税はしにくくなりました。

トランプ政権が発足して間もなく2カ月。人物評価は別にして、民主的プロセスを経て当選した大統領である以上、実際に出てくる一つ一つの政策に関しては是々非々のスタンスで評価分析すべしと考えています。

個別政策である税制については2月初旬にこれから2~3週間以内に「驚異的な」計画を発表するとトランプ氏が述べたことをきっかけにNYダウは連日高値を更新、30年ぶりの史上最高値までも更新するなど期待感が高まっています。その手がかりを探るべく、2月28日のトランプ氏の議会証言にも着目していましたが「国境税」への言及はありませんでした。

プロフィール

岩本沙弓

経済評論家。大阪経済大学経営学部客員教授。 為替・国際金融関連の執筆・講演活動の他、国内外の金融機関勤務の経験を生かし、参議院、学術講演会、政党関連の勉強会、新聞社主催の講演会等にて、国際金融市場における日本の立場を中心に解説。 主な著作に『新・マネー敗戦』(文春新書)他。

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例外的に低い日本への税率は同盟国への配慮か、ディールの罠か

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