ニュース速報
ワールド

アングル:「神の加護」大義にイラン戦 トランプ政権、キリスト教福音派へ露骨な傾斜

2026年04月09日(木)15時14分

イスラエルのテルアビブで、福音派団体が設置した看板の前。トランプ米大統領の写真とともに「神とトランプ氏に感謝」という文字がある。3月12日撮影。REUTERS/Nir Elias

Nathan Layne Tim Reid

[8日 ロイ‌ター] - トランプ米大統領は国内外で反発の強まるイラン戦争への批判をかわすべく、‌キリスト教の用語を多用して支持基盤に訴えかけている。宗教・政治の専門家らは、キリスト教福音派指導者らが​この戦争を「善と悪の決戦」と位置付け、教会からその物語を広めていると指摘する。

トランプ氏は7日、2週間の停戦を発表した。だが、高騰するエネルギー価格や日増しに膨らむ双方の犠牲は、有権者の間に深刻な厭戦(えんせ⁠ん)気分を広げており、この戦争への支持を取り付けることは​極めて困難な局面にある。

ここ数日、トランプ氏は繰り返しキリスト教的な文言を使っている。イランで撃墜された米軍パイロットの救出を「復活祭(イースター)の奇跡」と呼び、米・イスラエルによる攻撃には神の加護があると説いた。ヘグセス国防長官はさらに踏み込み、聖書の一節を引用して、「慈悲を受けるに値しない」敵に対する「圧倒的な暴力」の使用を正当化した。

トランプ氏のメッセージは、保守的なキリスト教指導者らによって繰り返し伝えられてきた。彼らは現代のイスラエル国家が持つ聖書的な意義を強調しており、多くの福音派はこれをキリスト再臨に関する⁠預言と結びつけている。

<福音派はイラン戦争を「善対悪」と見なす>

トランプ氏の支持者である福音派の牧師ジャクソン・ラマイヤー氏は、下院への出馬を予定している。ロイターの取材に対し、オクラホマ州での日曜礼拝で「戦争は通常、善と悪の戦いであり、イランも例外ではない」と説いたことがあると述べた。

「こ⁠の世には悪人​が存在する。叩かなければ、叩かれることになる」と同氏は語った。「善か、それとも悪か。聖書が語っているのはそういう物語だ。幸いなことに、最後には必ず善が勝つと決まっている」

白人福音派はトランプ氏の最も強力な支持層の一つであり、出口調査によると2024年には80%以上が同氏に投票した。各種調査でも、トランプ支持者の約3分の1に相当することが示されている。

こうした政治的現実こそが、トランプ氏と閣僚らが紛争を宗教的な枠組みで捉える傾向を強めている大きな理由だと複数の政治・宗教専門家はみている。

「トランプ氏の支持率を見れば、国民の3分の1強しか味方につけていないことがわかる。その層の大部分を占めているのが、白人の福音派なのだ」。サウスカロライナ州ファーマン大学で米国政治と宗教の関係を研究するジム・グース教授はそう指摘した。

ホワイトハウスはトランプ氏のキリスト教的言い回しに関す⁠る質問には回答しなかった。ロジャース報道官補佐は声明で、大統領は「このテロ政権の脅威を排除し、今後何世代にもわたって米国民を‌守る」ための大胆な行動をとったと述べた。

歴代の米大統領が戦時中にキリスト教信仰を引き合いに出してきたのは確かだ。ただロイターが取材した複数の専門家によると、トランプ⁠政権が暴力を正当⁠化するために、あからさまに宗教的な用語で硬直的かつ明確な表現を使っている点は異例だという。

「中世の十字軍と同じ言い方だ。つまり、『異教徒は阻止しなければならない、邪悪な者は打ち倒さなければならない』という発想だ」。福音派と政治について多くの著書があるメサイア大学のジョン・フィー教授(歴史学)は言う。「米国の歴史上、前例がない」

こうした露骨な宗教的メッセージは、一部の民主党員や左派寄りのキリスト教指導者から批判を浴びている。世論の猛反発にあっているこの戦争は、開戦から5週間ですでに米兵13人と数千人のイラン人の命を奪っており、そうした惨状を正当化するために神の名を持ち出すべき‌ではないという主張だ。

リベラル派の福音派牧師ダグ・パジット氏は、政権が「特定のキリスト教的な物語」を展開しているのは、福音派をつなぎとめ、トラン​プ氏の「MAGA(アメリ‌カを再び偉大に)」連合を維持するためだと考えている。

「⁠彼らが言わんとしているのは、『トランプ氏には神が味方についている。だから安​心していい』ということだ」とパジット氏は語る。「なぜなら、キリスト教勢力の結束がなければ、MAGAという基盤はたちまち崩れ去ってしまうからだ」

先週発表されたロイター/イプソスの世論調査によると、回答者の60%がイランへの軍事攻撃に反対している。この調査では党派間の深刻な分裂が浮き彫りになり、共和党員の74%が戦争を支持しているのに対し、民主党員ではわずか22%にとどまった。

<キリストにたとえられたトランプ氏>

著名な福音伝道師フランクリン・グラハム氏は、イランへの攻撃を聖書の言葉で称賛し、トランプ氏を聖書の登場人物であるエステルになぞらえた。聖書によればエステルは、古代ペルシャ(現在のイラン)で神によって民を滅亡から救うために選ばれたユダヤ人の王‌妃だ。

「私たちはトランプ氏を、神が我々を救うために遣わした『世俗の代弁者』だと捉えている」――テネシー州にあるパトリオット教会の指導者ケン・ピーターズ氏はインタビューでそう語り、今回の戦争を宗教的な文脈で語ることの正当性を強調した。

特にヘグセス長官は今回の戦争の位置付けを語る際、露骨に宗教的な言葉を使っ​てきた。5日にはイランでの米軍パイロット救出をキリストの復活になぞらえ「パイロットは再生し、⁠全員が無事帰還し、国中が歓喜している。神は偉大だ」と同氏は述べた。

米国防総省のウィルソン報道官はロイターへの声明で、戦時の指導者がキリスト教信仰に言及してきた例はこれまでにもあると指摘し、第2次世界大戦中にルーズベルト元大統領が兵士に聖書を配った例を挙げた。

「ヘグセス長官は多数の米国民と同様、敬虔なキリスト教徒だ。兵士のために祈るよう国民に促すことは、何ら物議を​醸すものではない」

先週ホワイトハウスで行われた復活祭のイベントでも、トランプ氏に近い福音派の牧師らが同様の宗教的言い回しを展開した。

第2次トランプ政権が設立したホワイトハウス信仰局のシニアアドバイザー、ポーラ・ホワイト牧師は、トランプ氏をキリストになぞらえ「どちらも裏切られ、逮捕され、いわれのない罪に問われた」と述べた。

この会合でトランプ氏を祝福した、テキサス州の有力牧師ロバート・ジェフレス氏はロイターに対し、イラン戦争はイスラム教やムスリムに対するものではなく「善と悪、神の王国とサタンの王国の間の霊的な戦い」だと信じていると語った。

ロイター
Copyright (C) 2026 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

セブン&アイ、米コンビニ事業の上場は最短で27年度

ビジネス

日経平均は5日ぶり反落、中東情勢の不透明感を改めて

ビジネス

ファーストリテ、通期予想を上方修正 純利益10.9

ビジネス

みずほ銀、長プラを年3.00%に引き上げ 97年5
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで代用した少女たちから10年、アジア初の普遍的支援へ
  • 3
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 4
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 5
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 6
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの…
  • 7
    高学力の男女で見ても、日本の男女の年収格差は世界…
  • 8
    戸建てシフトで激変する住宅市場
  • 9
    キッチンスポンジ使用の思いがけない環境負荷...マイ…
  • 10
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 9
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 10
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」…
  • 7
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 8
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 9
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 10
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中