焦点:米国のベネズエラ攻撃、中国に「中南米から手を引け」のメッセージも
中国の習近平国家主席(左)とベネズエラのマドゥロ大統領。2023年9月、北京で撮影された提供写真。Miraflores Palace/Handout via REUTERS
Michael Martina Trevor Hunnicutt David Brunnstrom
[ワシントン 11日 ロイター] - トランプ米政権による3日の対ベネズエラ軍事攻撃の目的は多々あるが、その1つは、中国に「米州から手を引け」というメッセージを送ることだった。
中国は少なくとも20年にわたり、経済的機会を追求するだけでなく、最大の地政学的ライバルである米国の目と鼻の先で戦略的足場を築くべく、中南米で影響力の構築を図ってきた。アルゼンチンの衛星追跡基地やペルーの港湾施設、さらにベネズエラへの経済支援に至るまで、中国の影響力拡大はトランプ政権を含め歴代の米政権にとっていら立ちの種だった。
トランプ政権の複数の高官はロイターに対し、今回のベネズエラ攻撃は中国の野心への対抗も狙いの1つであり、中国が債務をテコにベネズエラから安価な石油を手に入れる時代は「終わった」と述べた。
<そこにいてほしくない>
トランプ氏は9日の米石油会社幹部との会合で、中国とロシアが米国の勢力圏のすぐそばに入り込む「隣人」となっていることへの不快感を露わにし、上記のようなメッセージを明確にした。
トランプ氏は「私は中国にもロシアにも『われわれはあなた方とうまくやっているし、とても好きだ。だが、あそこにはいてほしくない。あなた方はあそこからいなくなるだろう』と言った」と述べた。そして今後は中国に対して「われわれはビジネスに前向きだ」と伝え、「そこ(ベネズエラ)であろうと米国内であろうと、われわれから欲しいだけ石油を買っていい」と言うつもりだと話した。
米国は軍特殊部隊をベネズエラの首都カラカスに派兵してベネズエラのマドゥロ大統領とその妻を拘束し、中国の利権と威信に打撃を与えた。
米軍は中国とロシアがベネズエラに提供した防空システムを即座に無力化。トランプ氏によると、多くが中国に向かうはずだったベネズエラ産石油3000万─5000万バレルが今後は米国に引き渡される。
アナリストは、マドゥロ氏拘束により、米州における中国の意思行使能力の限界が露呈したと指摘する。
シンクタンク「民主主義防衛財団」の中国専門家クレイグ・シングルトン氏は、この攻撃によって西半球における中国の「大国としてのレトリック(言葉による主張)と実際の到達力との隔たり」が明らかになったとみている。「中国政府は外交的に抗議することはできるが、米政府が直接的な圧力をかけると決めた場合、パートナーや資産を守ることはできない」と同氏は語った。
在ワシントン中国大使館はロイターへの声明で、米国の「一方的かつ違法で、威圧的な行為」を拒否すると述べ、「中国と中南米およびカリブ諸国は友好的な交流と協力関係を維持している。情勢がどう展開しようとも、われわれは友人でありパートナーであり続ける」とした。
ホワイトハウスはコメント要請に応じなかった。ただトランプ政権高官の1人は「中国は西半球における自らの立場を心配すべきだ」と述べ、同地域のパートナーは中国が自分たちを守れないことを次第に理解しつつあると付け加えた。
<トランプ氏の不透明な対中政策>
トランプ政権の対中政策は矛盾しているように見える。貿易戦争を沈静化させるために譲歩する一方、台湾支援を強化しているからだ。ただ、ベネズエラ攻撃で米国の政策はよりタカ派的な方向へ傾いたようだ。
実際のところ、米国の攻撃のタイミングのせいで中国の面目は一段と傷ついた。マドゥロ氏は攻撃のほんの数時間前、中国政府が派遣した特使とカラカスで会談していたからだ。米国に身柄を拘束される前に公の場に姿を見せたのは、これが最後になった。
中国特使との会談はカメラの前で演出されたものだったが、実際にはこのとき既に米軍は密かに作戦開始の態勢に入っており、中国は不意を突かれたことが分かると、別の米政府高官は指摘する。「もし中国側が米国の作戦に気づいていたなら、会談の様子をあのように公開しなかっただろう」
中国は何年も前からベネズエラの製油所やインフラに資金を投じ、2017年に米国とその同盟国が対ベネズエラ制裁を強化した後は同国に経済面の命綱を提供。ロシアとともにレーダー網などの装備や資金をベネズエラ軍に融通した。最近、こうしたレーダーは高性能な米軍機を探知できると喧伝(けんでん)されていたが、実際には、今回の米軍による急襲をほとんど妨げなかった。
シンクタンク「ハドソン研究所」の上級研究員マイケル・ソボリク氏は「中国製防衛装備を持つ世界中の国が自国の防空システムを点検し、米国からの攻撃を本当に防げるのかと頭を悩ませている。こうした国は、中国がイランやベネズエラに与えてきた外交的な保証が、米軍に対して実質的な防衛力を全く持たなかったことにも気づいている」と述べた。
消息筋によると、中国は今、こうした防衛システムの問題点を分析し、システムを強化しようとしている。
<中南米でリスクに直面する中国>
中国は中南米の他の国でも近く圧力を受けかねない。
中国はキューバでの影響力拡大を図っており、米国は中国が同地で情報収集活動を行っていると疑っている。中国はこれを否定しているが、昨年、キューバと情報共有を強化することで合意した。
トランプ氏はベネズエラ攻撃の数日後、ベネズエラ産石油の供給を失って苦境にあるキューバについて、崩壊しつつあるように見えるため米軍の介入はおそらく不要だと述べた。
トランプ政権はまた、大西洋と太平洋を結ぶ重要な水路であるパナマ運河周辺の港湾運営から中国企業を排除するよう引き続き圧力をかけている。
米国務省高官は、米国はパナマ運河近辺での中国の影響力について「引き続き懸念している」ものの、中国の「一帯一路」構想からの離脱や、香港の大手複合企業、長江和記実業(CKハチソンホールディングス)との契約下にあるパナマ港湾の利権の監査など、パナマ政府の取り組みを評価していると述べた。
中国がこの地域で劣勢に立たされているように見える一方、アナリストは米国がベネズエラに長期にわたり軍事的に関与することや、同国の治安状況が悪化することで、中国が再び影響力を取り戻すきっかけが生まれかねないと指摘している。
元国務省高官で現在は米シンクタンクのアジア・ソサエティに籍を置くダニエル・ラッセル氏は、トランプ氏の下で米政府の姿勢が「法の支配」に基づくものから「西半球に焦点を当てた勢力圏の論理」へと劇的に転換したと述べ、これは中国の思うつぼかもしれないと指摘。
「中国は、アジアが中国の勢力圏であることを米国に受け入れさせたいと考えており、米国がベネズエラで泥沼にはまることを期待しているのは間違いない」と話した。





