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マクロスコープ:日中関係悪化、広がるレアアース懸念 訪日減には「歓迎」も

2025年11月20日(木)13時01分

写真は中国と日本の国旗。2018年10月、北京で撮影。 REUTERS/Thomas Peter

Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto

[東京 20日 ロイター] - 日中関係の悪化を受け、日本国内にはレアアースの輸出制限など中国側の更なる対抗措置への懸念が広がっている。基幹産業である自動車など多くの国内ハイテク企業が影響を受けるからだ。一方、高市早苗首相と方向性を同じくする与党内からは、中国による訪日自粛要請を「歓迎」する声もある。関係悪化の長期化は、日本の政界と経済界の温度差を広げかねない。

<高まるレアアース規制への懸念>

「日中関係悪化で最も心配なのはレアアースの安定供給だ」。自動車メーカーなどでつくる日本自動車工業会関係者はこう危機感をあらわにした。

レアアースはネオジムやセリウムなど17種類の希土類元素の総称だ。電気自動車(EV)やハードディスク用ガラス基板の研磨材など日本のハイテク産業には不可欠で、経済成長を支えるためにもその必要性は高まっている。

国際エネルギー機関(IEA)の2023年調査によると、レアアースの精錬部門は世界シェアの約9割を中国が占めた。世界各国で中国依存度低減が課題となる一方、日中関係においては10年、日本が実効支配し、中国も領有権を主張する尖閣諸島(中国名:釣魚島)沖での漁船衝突事件を機に中国の対日レアアース輸出が急減した経緯がある。

赤沢亮正経済産業相は18日の閣議後会見で、「レアアース等の輸出管理措置に現時点では特段の変化はないと承知している」と述べたが、自民党の政務三役関係者は「中国は当然レアアース規制を日本にぶつけてくるだろう」と構える。日本外務省関係者も「レアアース規制は中国にとって大きな対日カードだ」と認めており、いつ動きが表面化するか予断を許さない状況だ。

<「訪日減れば支持率上がる」>

一方、中国政府による国民に対する訪日自粛の呼びかけについて、与党内には「歓迎」する声が広がっている。自民党と連立を組む日本維新の会の吉村洋文代表(大阪府知事)は18日の会見で「中国人観光客は実際減ると思う」とした上で、「これは中国という国のカントリーリスクだ。観光業の関係者は中国人観光客が減っても成り立つビジネスモデルを目指してもらいたい」と語った。

日本政府観光局によると、今年1―10月に訪日した中国人観光客数は約820万人で、昨年同期比41%増となった。新型コロナウイルス禍の停滞を脱し、今年はすべての月で前年を上回る。10月だけでも約72万人が訪日した。

こうした現状は日本国内で「オーバーツーリズム」とも指摘され、繁華街の過度な混雑などにつながっていると言われる。今年7月の参院選では外国人問題への対策強化を掲げた参政党が躍進。高市氏も首相就任後、外国人政策担当相のポストを新設するなど対策の強化を打ち出している。

自民内には外国人対策に前向きな高市氏の姿勢が、有権者から支持されているとの見方がある。党幹部の1人は「中国人観光客が多すぎて不満をもつ有権者の声をよく聞く」とし、「これで訪日客が減ってくれればちょうどいい。内閣支持率もさらに上がるんじゃないか」と話した。

党関係者は「都市部の中国人観光客が減ることで、物価も下がるだろう。そうすると他国からのインバウンドが増えるかもしれない」とし、「中国人客が減っても結局トータルで経済にそれほど影響しないかもしれない」と楽観視した。

<専門家「さらなる影響懸念」>

ただ、日本政府関係者は危機感を隠さない。12年には尖閣諸島の国有化を受けて関係が悪化。翌13年にも安倍晋三首相(当時)の靖国神社参拝で再び「関係が地に落ちた」(外務省幹部)。それぞれ長期にわたって要人往来や民間交流に影響が出るなど、事態の鎮静化に苦労した記憶はいまも残る。

日本外務省関係者は「日本の世論が右傾化していることに、中国の警戒感は高まっている」と指摘。日中関係は深い経済的なつながりに支えられてきたものの、「現在は経済でさえ『経済安保』として対中リスクの文脈で語られてしまう。関係改善は以前よりも難しくなっている」と語る。

日中関係悪化の影響を専門家はどう見ているのか。

野村総研エグゼクティブ・エコノミストの木内登英氏は「水産物の対中輸出額は24年実績で約61億円にとどまっており、輸入再規制による日本の国内総生産(GDP)への影響は軽微だ」と指摘する。

一方、「今後レアアース規制などに発展すると影響は非常に大きく、19日の東京株式市場の大幅安もそのような懸念を織り込んだ動きだろう」と分析。「今後、半導体製造装置の日本からの輸入制限、大豆など農産物の日本への輸出制限など、日本経済にダメージの大きなカードを切ってくる可能性がある。農産物は中国以外の国からも輸入可能だが、すでに上昇している国内食料品価格の更なる上昇につながることが懸念される」と話した。

(鬼原民幸、竹本能文 グラフィック作成:田中志保 編集:橋本浩)

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