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アングル:中国自動運転企業が欧州へ進出加速 競争激化で警戒も

2025年10月11日(土)07時59分

 米国市場からの締め出しを受けた中国の自動運転技術企業が欧州進出を加速している。写真は港に並ぶ新車。2024年10月、ベルギーのゼーブルッヘで撮影(2025年 ロイター/Yves Herman)

Nick Carey

[ミュンヘン 6日 ロイター] - 米国市場からの締め出しを受けた中国の自動運転技術企業が欧州進出を加速している。欧州に本部や拠点を設け、データ契約を結び、道路での走行試験を進めており、競争をめぐる懸念から地元勢に警戒感が広がっている。

世界最大の自動車市場である中国では現在、多くのエントリーレベル車種を含め、販売されている自動車の半数以上が自動運転技術を装備しており、標準装備となる車種もある。

中国政府は自国企業に対し、自動運転車開発で世界をリードするよう促す一方、国内では全国レベルの規制策定を進め、今後の道筋を明確に示している。

ロイターが取材した企業経営者12人は、中国企業が欧州を世界進出の足掛かりとしている実態を説明した。電気自動車(EV)での攻勢と軌を一にする動きだ。

「わが社のグローバルな将来に向け、欧州に注力している」と語るのは、運転支援システムを提供する北京のスタートアップ企業、軽舟智航(QCraft)のドン・リー最高技術責任者(CTO)だ。同社は先月のミュンヘン自動車ショーで、ドイツに新本社を設立する計画を発表。進出の理由に米国よりも開放的な環境があることを挙げた。

リー氏は、自動運転システムによるデータ収集について米国が国家安全保障上の懸念を抱いている点に言及し、「米国市場には障壁がある」と述べた。

各社は、欧州は規制環境がより開放されていると説明する。ただし現時点では運転支援システムは一部の高級車種に限定されているほか、開発者からは規制のばらつきに対する不満も出ている。

<欧州に照準>

QCraftは中国および欧州の自動車メーカーと提携し、2年以内に欧州で技術提供を開始する見込みだ。

中国26都市のバスはQCraftの「レベル4」の自動運転技術を採用している。このレベルでは人間の介入なしに長時間走行が可能だ。

同じくレベル4技術を提供する深セン元戎啓行科技(ディープルート・エーアイ)は、欧州・中国メーカーと協議中の契約がまとまり次第、欧州にデータセンターを建設する計画だ。

トヨタ自動車や米ゼネラルモーターズ(GM)に自動運転システムを供給する北京初速度科技(モメンタ)は、米配車大手ウーバーと提携し、来年ドイツでレベル4技術の試験を開始する。

情報筋は、モメンタは欧州市場を狙っていると語った。

<欧州から公正な競争求める声>

業界専門家によると、文遠知行(ウィーライド)、百度、小馬智行(ポニー・エーアイ)といった中国の他の自動運転企業も欧州で事業を拡大している。

こうした動きに対し、欧州の競合企業からは補助金や保護貿易政策を求める声がある一方、中国企業の参入が業界全体の技術向上を促し、遅れている欧州の開発を加速させると認める企業もある。

英スタートアップ企業、フュージョン・プロセッシングのジム・ハッチンソン最高経営責任者(CEO)は、国家安全保障と競争上の懸念を理由に、より厳しい監督の必要性を主張。「この技術を導入するなら、公平な競争環境のためにより高いレベルの規制と少なからぬ介入が必要だ」と語った。

<欧州は唯一参入できる市場>

欧州では依然として高価な先進運転支援システムが、価格競争の激しい中国では安価に、時には無料で提供されている。

コンサルティング会社シノ・オート・インサイツの創業者トゥ・レ氏によると、バイデン前米政権が中国のコネクテッドカー技術に対する禁止措置を実施して以来、欧州各国は中国車の技術に対してより寛容だとみなされるようになった。

「欧州はこうした中国企業にとって唯一参入可能な市場だ。欧州は行動を起こすべきだ」と指摘する。

欧州の自動運転技術企業、ウエイブの創業者であるアレックス・ケンドールCEOは、欧州は規制を簡素化して市場を開放すべきだと主張する。中国企業による競争は、誕生間もないこの産業の成長を加速させるとの期待を示す。

「今日、世界に何台の自動運転車が存在するだろうか。そう多くはない。成長余地は膨大だということだ」とケンドール氏は語った。

ロイター
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