焦点:欧州、独力でのウクライナ平和維持は困難 米の支援見込めず苦境に

2月18日、 欧州は、将来ウクライナを巡る和平合意が成立した後、同国に平和維持部隊を派遣するよう米国から要求され、ジレンマに直面している。写真は2024年7月、ウクライナ・ザポロジエ地域の前線で演習を行うウクライナ兵(2025年 ロイター)
Sabine Siebold
[ベルリン 18日 ロイター] - 欧州は、将来ウクライナを巡る和平合意が成立した後、同国に平和維持部隊を派遣するよう米国から要求され、ジレンマに直面している。
専門家によれば、欧州がウクライナに部隊を派遣すれば大西洋条約機構(NATO)自体の防衛力が弱体化する可能性がある上、任務を成功させるにはいずれにしても米国の支援が必要だ。
米軍が現地に派兵する必要はないと想定した場合でも、中距離ミサイルや、究極的には核兵器によって米国が抑止力を発揮することは重要になる。
第一次トランプ米政権時に英国の国家安全保障顧問だったマーク・ライアル・グラント氏は「米国が何らかの形で関与しない限り、攻撃的で国家主義的なプーチン(ロシア大統領)を前にして、いかなる安全保障合意も100パーセント信頼できるとは思わない」と語った。
欧州高官らも、欧州の平和維持部隊を保護し、ロシアが将来ウクライナに攻撃を仕掛けるのを抑止できるのは米国の保証だけだと言う。
トランプ大統領は先週、サウジアラビアのリヤドで米国とロシアがウクライナを巡る2国間和平協議を行うと発表し、欧州を驚かせた。協議は18日に始まった。一方、ヘグセス米国防長官は同盟国に対し、「安全保障を巡るいなかる保証も、欧州および欧州以外の有能な軍隊によって裏付けられなければならない」と述べた。
ヘグセス氏は、米軍をウクライナに派遣することはないと明言した。
欧州各国首脳は17日にパリで緊急会合を開いたが、ウクライナへの平和維持部隊派遣を巡る意見の隔たりは埋まらなかった。派兵案はフランスが音頭を取り、昨年から一部の欧州諸国が協議を始めていた。
派兵すれば、欧州はロシアと直接対決するリスクが高まる。また欧州はウクライナへの提供によって兵器の備蓄が枯渇している上、主要任務では米国の支援に大きく依存してきただけに、派兵すれば戦力が限界に達しかねない。
スターマー英首相は17日、ウクライナに軍を派遣する意思はあるが、米国の「後ろ盾」も必要だと述べた。
<欧州の派兵によりNATOは弱体化するか>
専門家は、ウクライナに大規模な欧州軍を展開すれば、拡大が予想されるロシアからの脅威に対するNATOの防衛力が弱まりかねないと警告している。戦闘が終結すれば、ロシアは軍備を急速に補充することが可能になる。
また、冷戦終結後に比較的平和な数十年が続いたことで、欧州は即応態勢を十分強化できていない。その欧州が、特にロシアおよびベラルーシとの2000キロ以上に及ぶコンタクトライン(接触線)を保護するよう求められた場合、即戦力となる兵力を十分かつ迅速に調達できるかについては疑問の声がある。
ドイツのシンクタンク、SWPのアナリスト、クラウディア・メイジャー氏は17日、ドイツの公共放送で、平和維持部隊にはウクライナ軍を含め4万人から15万人の兵力が必要になる見通しで、欧州単独で編成するのはほぼ不可能だと語った。
メイジャー氏が共同執筆した調査報告書によると、NATOが1999年に派遣したコソボ平和維持部隊は当初の規模が4万8000人規模で、1万1000平方キロの土地を守っていた。ウクライナの面積はその約55倍だ。
同氏は「欧州は自らの防衛力、あるいは例えばバルト諸国で計画している防衛力を弱めない限り、そうした規模の部隊を現時点で有していない」と述べた。
「同時に、偵察、防空、標的設定の分野において欧州には重要な能力が欠如しており、十分な能力を備えているのは米国だけだ」という。
<ロシアはNATO平和維持部隊派遣に反対>
ヘグセス米国防長官は、平和維持部隊をウクライナ国内に駐留させるべきだと公言してはいないが、NATOの集団自衛権の行使を規定した第5条の適用対象にはならないとの考えを明確にしている。
ロシアのラブロフ外相は18日、リヤドで記者団に対し、ウクライナ国内にNATO加盟国の軍が駐留することをロシアは受け入れられないと述べた。
しかしウクライナ国外から抑止力を行使しようとすれば、欧州は別のジレンマに直面しかねない。ロシアが停戦合意に違反した場合、同国の標的を遠距離から攻撃できるような中距離兵器を保有していないからだ。
また、米国にはロシアに対する究極の抑止力となる巨大な核兵器があるが、欧州にはそれが無い。