ニュース速報
ワールド

焦点:トランプ米政権、結束した敵対勢力に直面 外交で新たな課題

2025年01月22日(水)16時40分

 1月21日、トランプ米大統領は1期目に敵対国のロシアや北朝鮮と公然と友好関係を築く一方、中国やイランには個別に圧力をかける独自の外交を展開した。写真は20日、ワシントンで行われた就任に伴う舞踏会でスピーチするトランプ氏(2025年 ロイター/Daniel Cole)

David Brunnstrom Michael Martina Daphne Psaledakis

[ワシントン 21日 ロイター] - トランプ米大統領は1期目に敵対国のロシアや北朝鮮と公然と友好関係を築く一方、中国やイランには個別に圧力をかける独自の外交を展開した。しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後に米国の敵対勢力は結束を強めており、トランプ氏は1期目とは異なる課題に直面している。

20日に大統領に就任したトランプ氏は米軍を増強する一方で、ウクライナでの戦闘を終結させ、イランの核開発を抑制し、中国に対抗することを誓った。だが、中国の習近平国家主席とロシアのプーチン大統領は「制約のないパートナーシップ」を築いており、中国はロシアに対してウクライナでの戦闘を維持するのに必要な経済支援をしている。

プーチン氏と習氏は21日、両国の戦略的パートナーシップのさらなる深化について話し合った。

一方でプーチン氏は、24年6月に北朝鮮と、今月17日にイランとそれぞれ包括的戦略パートナーシップ条約に署名した。

バイデン前大統領に指名されたニコラス・バーンズ駐中国大使が「神聖でない同盟」と呼んだ米国の敵対国4カ国のグループは、米国と同盟国にとって影響力の喪失につながるとアナリストは指摘している。

オバマ米政権で東アジア政策の責任者を務めた、米首都ワシントンのアジア・ソサエティー政策研究所のダニエル・ラッセル氏は「『ロシアと仲良くしたい』との願望を表明し、貿易で中国を封じ込めようとしているトランプ氏にとってのジレンマは、中ロの連携という制約ゆえにロシアは米国との関与にあまり意欲的でなくなると同時に、中国は米国の圧力による影響を受けにくくなることだ」と語った。

ロシアが欧米の厳しい制裁を乗り切ってこられたのは、中国によるロシア産石油の大量購入と、バイデン前政権がロシアの防衛産業基盤を支えていると指摘したデュアルユース製品(軍事、民事両方で利用可能な製品)の供給のためだ。

北朝鮮はロシアに対してウクライナ戦闘のための兵士と武器を供給し、核ミサイル計画を急速に進めている。専門家らは、イスラエルの攻撃によって弱体化したもののイランが核兵器製造に向けた取り組みを再開するのではないかと懸念している。

トランプ政権のメンバーもこうした課題を認めており、トランプ氏が安全保障補佐官に指名したマイク・ウォルツ氏は昨年11月のFOXニュースのインタビューで「中国はイランから小銭で石油を買っており、イランはそれを使ってロシアにミサイルや無人機を送り込み、それらがウクライナの極めて重要なインフラを攻撃している」と批判した。

国務長官に指名されたマルコ・ルビオ氏は先週の議会上院の承認公聴会で、中国について米国が直面する最大の脅威だと位置付け、ロシアとイラン、北朝鮮が「混乱と不安定 」の種をまいていると非難した。

<中国から引き離し>

アメリカン・エンタープライズ研究所のアジア担当シニアフェロー、ザック・クーパー氏は、トランプ政権が「中国から国々を引き離そうとするだろう」と分析。「彼らはロシア、北朝鮮、イランを中国から引き離したがっているようで、それはこれらの脅威が相互に関連していることを示唆するのではなく、区別することを意味している」とし、「北朝鮮との取引を進め、別の取引をロシアと進める可能性が最も高いように思える」と語った。

しかしながら、同盟関係にある国々を分割するのは簡単ではない。

オバマ米政権で通商代表を務め、現在はシンクタンクの外交問題評議会の会長を務めるマイケル・フロマン氏は、北朝鮮が米国と直接交渉するインセンティブが失われている可能性があると言及した。

トランプ氏は第1期在任中に北朝鮮と取引ができると考えていたものの、フロマン氏は北朝鮮がロシアと中国からより広範な支持を得ている今となっては米国と関与することに関心があるかどうかは不透明だと語った。

トランプ氏は1期目に北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記と前例がなかった首脳会談を実施し、仲の良さをアピールした。トランプ政権は金氏との直接会談の可能性について再び議論している。

一方、4カ国の関係には亀裂が生じ始めているようだ。

バイデン政権下で国連次席大使を務めたロバート・ウッド氏は、イランがロシアの支援を当てにできるかどうか疑問視し、その根拠としてイランの同盟相手だったシリアのアサド前大統領が追放される直前にロシアからの支援がなかったことを挙げた。

ウッド氏は「もしも私がイランで、ロシアがどのようにアサドを見捨てたのかを目撃したとしたら、非常に強い懸念を抱くだろう」と話した。

トランプ氏は、核開発、弾道ミサイル開発、地域活動についての交渉をイランに迫るためにイラン経済を破壊しようとした1期目の政策に戻る公算が大きい。

ウッド氏は、トランプ政権が米国の資産となっている同盟関係の強化に重点を置けば、こうした努力はより容易になるだろうと指摘。中国とロシア、イラン、北朝鮮を指して「米国が単独でこれら全てを相手にすることはできないため、わが国が持っている一種の同盟を持ち、頼れることが極めて重要だ」との見解を示した。

ロイター
Copyright (C) 2025 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

再送-TOPIX採用企業は今期6.6%減益予想、先

ワールド

焦点:シリア暫定大統領、反体制派から文民政府への脱

ワールド

台湾輸出、10月はAI好調で約16年ぶり大幅増 対

ワールド

韓国当局者、原潜は国内で建造 燃料を米国から調達の
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    「遺体は原型をとどめていなかった」 韓国に憧れた2人の若者...最悪の勘違いと、残酷すぎた結末
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    「これは困るよ...」結婚式当日にフォトグラファーの…
  • 6
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 7
    クマと遭遇したら何をすべきか――北海道80年の記録が…
  • 8
    NY市長に「社会主義」候補当選、マムダニ・ショック…
  • 9
    「なんだコイツ!」網戸の工事中に「まさかの巨大生…
  • 10
    なぜユダヤ系住民の約半数まで、マムダニ氏を支持し…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 7
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 8
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 9
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 10
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 6
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中