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アングル:ネットでの「さらし」や懲戒処分、米大学生が直面するガザ抗議の代償

2024年07月19日(金)18時58分

米国各地の大学は戦争に反対する抗議活動の波に揺れている。写真はニューヨークのコロンビア大学で4月、パレスチナの旗を振る人(2024年 ロイター/David Dee Delgado)

David Sherfinski

[リッチモンド(米バージニア州) 9日 トムソン・ロイター財団] - サム・ローさんは、米テキサス大学オースティン校に在籍する大学院生。4月末に同校キャンパス内でパレスチナ自治区ガザへの攻撃に抗議するデモに参加し、不法侵入の容疑で逮捕、訴追された約80人のうちの1人だった。

ローさんの供述書によれば、4月29日の抗議デモの際、誰かが拡声器で解散命令を読み上げたらしいが、ローさん自身はそれを耳にした覚えがないという。

米国各地の大学は戦争に反対する抗議活動の波に揺れており、時には警察とデモ参加者の衝突が発生し、集会や座り込みを解散させるための強制的な手法に疑問が投げかけられている。

4月末、ローさんのキャンパスでは暴徒鎮圧用の装備に身を固めた騎馬警官が抗議活動を一掃、数十人を逮捕し、その数日後にローさん自身も逮捕された。

この先数カ月、就職や学業の再開に向けた準備を進める中で、多くの学生は、逮捕されたことで学業や就職の面で不利になるのではないかと心配している。

ローさんや彼と共に逮捕された学生らに対する不法侵入による訴追は取り下げられたものの、ここに来て、大学自体から懲戒処分を科される恐れが生じている。

ここ数週間、大学当局から学生たちのもとに、なぜ解散命令に従わなかったのか、抗議当日の行為が破壊的であったことを認めるか、「諸君の行為により生活や学業に悪影響が生じた」同窓の学生たちに向けた言葉はあるか、といった内容のメッセージが届いている。トムソン・ロイター財団がメールによる質問を閲覧した。

地元メディアによれば、一部の学生は謹慎や停学といった懲戒処分を受ける可能性があるという。

啓発団体パレスチナ・リーガルの専属弁護士であるディラン・サバ氏によれば、昨年10月7日、つまりイスラム組織ハマス主導の武装勢力がイスラエルを襲撃し、イスラエル側の集計では約1200人が殺害され、250人が人質となったとされる日から、昨年末までの間に、同団体では1000件以上の支援要請に対応したという。

「主な相談内容は、パレスチナ支援の啓発活動や意見表明に関連した個人情報の暴露、大学からの懲戒処分や告訴、そして就職の際の差別といった問題もある」とサバ氏は言う。

ローさん自身も、自分の写真がインターネットに投稿されているのに気づき、悪意に基づいて他者の個人情報をネットで暴露する、いわゆる「ドクシング」の被害に遭っていることを悟った。

「ドクシングとしてはソフトな方だ。ツイッター(現X)の雑多な右派アカウントが、たとえば『これがテキサス大学の大学院生、サム・ローだ。このハマス寄りの大学院生があなたの学部で勉強していることを支持するか、意見を聞かせてくれ』みたいな投稿をしている」とローさんは言う。

その一方で、イスラエルのガザ攻撃が続く中で、多くのユダヤ系学生や教員が反ユダヤ主義による暴言や差別に悩まされている。

ハマス主導による攻撃を受けたイスラエルは、ガザ地区に対する軍事攻撃を開始し、ガザの保健当局によればパレスチナ側に3万8000人以上の死者が出ている。

非営利のユダヤ系人権擁護団体「ルイス・D・ブランダイス・センター・フォー・ヒューマン・ライツ・アンダー・ロー」の創設者であるケネス・マーカス会長は、「学生からは、反ユダヤ主義を理由に大学の転籍を考えている、あるいはすでに転籍したという報告を受けている」と語る。同センターでは昨年10月7日以降、複数の大学に対して公民権擁護を訴える抗議文を多数提出してきた。

「こういうことは以前からときどき耳にしていたが、このところ大幅に増えている」とマーカス会長は言う。「ユダヤ系学生が身体的な暴力を受けたり、脅迫を受けたりすることもある。言葉による暴力もある」

<「個々の学生が標的に」>

コロンビア大学などで4月に始まった構内占拠が1つのきっかけとなって全国規模に拡大した大学キャンパスでの抗議により、ここ数カ月で3000人以上が逮捕されている。

学期が終了に近づき、多くの学生は夏季休暇を過ごすべく自宅に向かっていたが、抗議活動は続いた。スタンフォード大学では6月、総長室を占拠した学生10数人が逮捕された。

サバ氏は、各大学キャンパスでの状況はパレスチナ支持の運動における重大な分岐点になる可能性があると言う。

「懲戒処分がこれほど広範囲かつ公然と行われれば、多くの人が、これは政治的、文化的に大きな節目であると認識するのではないか」とサバ氏は言う。

テキサス大学オースティン校は、複数の学生にすでに規則違反を理由とした懲戒処分の通知を送付したことを認めたが、広報担当者は、抗議に伴う「就職または学業への影響」については所管外であると述べた。

大学側は声明で「本学のキャンパスでは昨年10月以降、パレスチナ支持の自由討論イベントが13回以上、いずれも平穏に行われたが、(4月24日および29日の)参加者の行動や意思表明は、それらとは著しい対照を示している」とした。

米イスラム関係評議会(CAIR)で調査・啓発担当ディレクターを務めるコーリー・セイラー氏は、最近の抗議活動を巡るイスラム嫌悪の再燃は、これまでの流れとは異なっている、と指摘する。

「過去に見たことのないような特徴がいくつかある。その1つは、個々の学生が標的になり、極めて露骨な個人情報の暴露をしている点だ。職員を対象とした攻撃についても同じことが言える」とセイラー氏。

「職員に関しては、パレスチナ支持の集会に参加すると、2日後には大学の人事部に呼び出されるという状況が見られる」

ブランダイス・センターのマーカス会長も、パレスチナ支持の集会やイベントへの参加者が仕事の面での影響を受けていることを認める。

「ただし、彼らの行動の一部が違法かつ暴力的であったことも事実だ」とマーカス会長は言う。

マーカス会長は「人事部門が、過去にヘイトや差別に絡んだ活動に関与した志願者について警告を発することは珍しくない。特に、それについて司法の裁きを受けたり、大学の倫理機関によって行動規範違反と認定されたりした場合はなおさらだ」と語る。

ローさんは、今回の件に対する大学側の対応を受けて、学生の中には、今後のキャンパスでの抗議活動に参加することをためらう者も出てくる可能性がある、と話す。ただしローさん自身は、運動は今後も続いていくのではないかと考えている。

「自分がやったことが悪いという感覚はまったくない。私はジェノサイドが進行する中で立ち上がり、効果的だと思える形で声を上げたのだと考えているし、効果的だったと思っている」とローさんは言う。

「オースティンでは多くの関心を集めた。まさに、これからも続いていく動きを誘発したのだと思っている」

(翻訳:エァクレーレン)

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