ニュース速報

ワールド

焦点:バングラ中銀のFED口座盗難被害、ハッカーのスペルミスで発覚

2016年03月14日(月)21時04分

 3月10日、銀行当局者によると、FEDにあるバングラデシュ中銀の口座からのハッカーによる現金盗難は、送金先の名前のスペルが間違っていたことが被害の発覚につながった。写真はバングラデシュ中銀。ダッカで8日撮影(2016年 ロイター/Ashikur Rahman)

[ダッカ 10日 ロイター] - 銀行当局者によると、先月に発生した米ニューヨーク連邦準備銀行(FED)にあるバングラデシュ中央銀行の口座からのハッカーによる現金盗難は、送金先の名前のスペルが間違っていたことが被害の発覚につながった。送金がすべて行われていれば被害総額は10億ドルに上ったという。

それでもハッカーらは約8000万ドルを盗むことに成功。これは、明るみになった銀行強盗の中でも最大規模の被害額となる。犯人は拘束されていない。

バングラデシュ中銀の当局者2人によると、ハッカーは中銀のシステムに不正侵入し、送金手続きに必要な認証情報を入手。その後、口座を管理する米ニューヨーク連銀に対し、フィリピンとスリランカの組織への送金依頼を30回以上行った。

このうち4回の送金が実施され、フィリピンに計約8100万ドルが送られた。しかし5回目の依頼では、ハッカーが送金先であるスリランカの非政府組織(NGO)「シャリカ・ファンデーション」の名前のスペルを間違えたことから、経由銀行のドイツ銀行が不審に感じ、バングラデシュ中銀に照会。送金は中止されたという。

ハッカーは「ファンデーション」のスペルを、正しくは「foundation」であるところを「fandation」とつづっていた。

スリランカで登録されたNGOのリストには「シャリカ・ファンデーション」という組織は含まれていない。

また当局者によると、ニューヨーク連銀も、通常よりはるかに多い依頼回数や送金先が銀行ではなく民間組織だったことに疑いを抱き、バングラデシュ側に通知したという。

今回のハッキング被害が発覚し阻止された経緯はこれまで報じられていない。

バングラデシュ中銀は海外向けの決済に使用するため、ニューヨーク連銀にある口座に数十億ドルを預けている。

当局者の1人は、阻止された送金額が総額8億5000万─8億7000万ドルに上ったと明らかにした。

<資金の一部は回収>

バングラデシュ中銀は、盗まれた現金の一部を回収し、残りの回収に向けてフィリピンのマネーロンダリング規制当局と協議していると発表した。10日に中銀報道官のコメントは得られなかった。

スリランカへの送金手続きでは、現金は同国のパン・アジア・バンキング・グループに送られたが、同行の職員によると、送金額が並外れた規模だったことからドイツ銀行に詳細な情報を求めた。この職員は「スリランカにとってこの規模の送金は大きすぎる」と述べた。

バングラデシュ当局者は盗難発生から1カ月以上が経過してから送金先を調査し、中銀のシステムのセキュリティーを強化するなどの措置を取っている。当局者らは、ハッカーの拘束は望み薄で、現金が回収できたとしても数カ月はかかるとみているという。

専門家はハッカーがバングラデシュ中銀内部の状況を把握していたとの見解を示した。中銀職員の行動を調査することでこうした情報を得ていた可能性が高いと指摘した。

一方、バングラデシュ政府はFRBが早期に送金を中止しなかったとして責任を追及している。アブル・マル・アブドル・ムヒト財務相は8日、FRBを提訴することもあり得ると記者団に述べた。

ニューヨーク連銀は、連銀のシステムが不正に侵入されたことを示すいかなる形跡もないとしたほか、被害発覚以降、バングラデシュ中銀と協議していると発表した。

当局者は、ハッキングは2月4─5日に起きたと述べた。バングラデシュの週末に当たるため中銀のオフィスは閉鎖していた。

中銀は当初、システムへの不正侵入があったかどうかは不明だとしていたが、調査を担当した専門家はハッカーの「足跡」を発見し、侵入の可能性があると述べたという。また専門家はハッキング元が海外だったと指摘した。

当局者によると、中銀はフィリピンに送られた資金が同地のカジノに流れたとみている。

フィリピン娯楽賭博公社は調査を開始したと表明したほか、同国のマネーロンダリング規制当局も調査を実施している。

(Serajul Quadir記者 翻訳:本田ももこ 編集:加藤京子)

ロイター
Copyright (C) 2016 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

米、中国の米企業制裁「強く反対」、台湾への圧力停止

ワールド

中国外相、タイ・カンボジア外相と会談へ 停戦合意を

ワールド

アングル:中国企業、希少木材や高級茶をトークン化 

ワールド

和平望まないなら特別作戦の目標追求、プーチン氏がウ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 5
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中