ニュース速報
ビジネス

賃上げ「継続必要」の認識広がる、消費も下支え=日銀支店長会議

2024年10月07日(月)19時24分

日銀が7日に開いた支店長会議では、来年度の賃金設定について、構造的な人手不足や最低賃金引き上げで賃上げを続けていく必要があるとの認識が企業の間で広がっているとの報告が多かった。写真は日銀本店。1月23日撮影(2024年 ロイター/Kim Kyung-Hoon)

Takahiko Wada Kentaro Sugiyama

[東京 7日 ロイター] - 日銀が7日に開いた支店長会議では、来年度の賃金設定について、構造的な人手不足や最低賃金引き上げで賃上げを続けていく必要があるとの認識が企業の間で広がっているとの報告が多かった。支店長会議後の記者会見では、各支店長から賃上げの波及による個人消費の下支え効果が言及された。

同日午後、日銀が公表した支店長会議での報告事項によると、価格設定について、サービス業などで工夫しながら転嫁を実施・検討している動きが引き続き広がっているほか、製造業では政府の後押しもあって価格転嫁が進めやすい環境になってきているとの報告が多かった。日銀が目指す賃金・物価の好循環が持続していることが示唆された。

来年の賃上げについて、神山一成・大阪支店長(理事)は、人手不足が継続する中で「多くの企業が積極的に取り組む姿勢を見せている」と述べた。ただ、一般消費者と直接向き合うBtoC分野では、個人消費が強くなってきているとは言えない中で価格を上げられるかどうか不安が残り、来年の賃上げはよく分からないとする企業が相対的に多いと述べた。

堂野敦司・名古屋支店長は賃上げや価格転嫁について「中小企業では区々な面がある」と述べた。価格転嫁や業況の改善が緩やかにとどまる中にあって、業績が伴わない「防衛的賃上げ」に踏み切る企業も出ていると話した。

<個人消費、今年の賃上げが押し上げ>

同日公表した「地域経済報告」(さくらリポート)では、全9地域中、北陸・東海の2地域の判断を引き上げた。一部に弱めの動きも見られるが、全ての地域で景気は「緩やかに回復」、「持ち直し」、「緩やかに持ち直し」と総括した。

東海は生産と個人消費の判断を引き上げた。堂野名古屋支店長は、自動車の認証不正問題の影響が解消し、生産・輸出が正常化してきたと説明。先行きについても「自動車を中心に当地の生産・輸出は高めのレベルで推移すると思われる」と述べた。個人消費については、所得改善で「緩やかな増加基調がはっきりとしてきた」とした。

個人消費は、東海と関東甲信越の2地域が判断を引き上げた。支店長会議では、今年の賃上げが個人消費の押し上げにつながり、特に賃上げ幅が総じて大きかった若年層の消費の押し上げ効果を指摘する企業の声も紹介されたという。

神山大阪支店長は「徐々に生活防衛的な動きから、買いたいものは買う、行きたいところには行く、推したい人は推すといったメリハリの取れた動きが出てきている」と述べた。

岡本宜樹・札幌支店長は消費者の節約志向について「日常的な消費に関わる財では変わりなく続いている」と述べた。ただ、所得の改善が消費を下支えしており、「コト消費」や「メリハリ消費」に所得改善効果を振り向ける動きが見られ始めていると述べた。

岡本札幌支店長は7月の会見で、実質所得低下の影響などで消費者の節約志向が「急速に広がっている」と述べていた。

<円安修正、「物価に大きなインパクトない」との声>

植田和男総裁は政策判断に当たって、金融市場の不安定な動きの背後にある海外経済、特に米国経済の動向を丁寧に見ていく姿勢を示している。神山大阪支店長は海外経済について「緩やかな成長が続くとの見方で企業は一致している」と述べた。

8月上旬以降、為替は円高に振れた。堂野名古屋支店長は「為替レートの過度な変動は先行きの不確実性を高め、事業計画の策定を困難にする」と指摘。為替レートはファンダメンタルズに沿って安定的に推移するのが重要だと話した。

神山大阪支店長は「かなり多くの企業が、あまり円安が進んでもらっては困るとの見方を共有している状況ではないか」とする一方、どの程度の円高ならいいのかについては企業・業種によって異なると指摘。「企業に共通しているのは為替の変動は緩やかな方がいいということ」だと述べた。

円安修正で輸入物価の前年比上昇率は大きく鈍化した。しかし、神山大阪支店長は「足元少し円高方向に振れたことで、物価動向に大きなインパクトをもたらすものではない」と話した。関西の企業はコロナ後の大幅な輸入物価上昇分をまだフルに転嫁しきれておらず、引き続きこれまでのコスト増を順次価格に転嫁していく方針だという。

大阪・関西万博の開催まで約半年となった。日本経済への影響について、神山大阪支店長は、新たなビジネス・技術開発の恩恵に加え、インフラ整備が進むことによる国内外の人々の交流の活発化や国内の他の地域への周遊などによって「全国に、長い期間にわたって(影響が)働くのではないか」と期待感を示した。

ロイター
Copyright (C) 2024 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

プーチン氏、ロは「張り子の虎」に反発 欧州が挑発な

ワールド

プーチン氏「原発周辺への攻撃」を非難、ウクライナ原

ワールド

西側との対立、冷戦でなく「激しい」戦い ロシア外務

ワールド

スウェーデン首相、ウクライナ大統領と戦闘機供与巡り
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
特集:2025年の大谷翔平 二刀流の奇跡
2025年10月 7日号(9/30発売)

投手復帰のシーズンもプレーオフに進出。二刀流の復活劇をアメリカはどう見たか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 2
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 3
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最悪」の下落リスク
  • 4
    「人類の起源」の定説が覆る大発見...100万年前の頭…
  • 5
    イスラエルのおぞましい野望「ガザ再編」は「1本の論…
  • 6
    「元は恐竜だったのにね...」行動が「完全に人間化」…
  • 7
    1日1000人が「ミリオネア」に...でも豪邸もヨットも…
  • 8
    女性兵士、花魁、ふんどし男......中国映画「731」が…
  • 9
    AI就職氷河期が米Z世代を直撃している
  • 10
    【クイズ】1位はアメリカ...世界で2番目に「航空機・…
  • 1
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外な国だった!
  • 2
    トイレの外に「覗き魔」がいる...娘の訴えに家を飛び出した父親が見つけた「犯人の正体」にSNS爆笑
  • 3
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 4
    ウクライナにドローンを送り込むのはロシアだけでは…
  • 5
    こんな場面は子連れ客に気をつかうべき! 母親が「怒…
  • 6
    iPhone 17は「すぐ傷つく」...世界中で相次ぐ苦情、A…
  • 7
    【クイズ】世界で1番「がん」になる人の割合が高い国…
  • 8
    高校アメフトの試合中に「あまりに悪質なプレー」...…
  • 9
    虫刺されに見える? 足首の「謎の灰色の傷」の中から…
  • 10
    琥珀に閉じ込められた「昆虫の化石」を大量発見...1…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 4
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 5
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に.…
  • 6
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 7
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 8
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 9
    「怖すぎる」「速く走って!」夜中に一人ランニング…
  • 10
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中