コラム

安倍、岸田と相次いだテロは民主主義の危機のシグナルだ

2023年04月24日(月)15時33分
<関連記事>
北方領土で演習のロシア太平洋艦隊は日本を脅かせるほど強くない──米ISW
安倍政権の7年8カ月の間に日本人は堕落した
日本の大学はChatGPTを「禁止」している場合ではない

選挙演説に立った岸田首相に爆弾を投げ込み取り押さえられる男(4月15日、和歌山市の雑賀崎漁港)

<岸田首相に爆弾を投げつけた容疑者は、日本の選挙は「普通選挙」とは呼べず、政治家二世や裕福な人しか立候補できない「制限選挙」だと憤っていた>

4月15日、岸田首相が選挙演説中に爆発物を投げ込まれる事件が発生した。幸い岸田首相は無事だったものの、その場で現行犯逮捕された青年は、犯行の動機を黙秘し続けていると報じられている。事件の動機を解明することは犯人に同情を集めるので解明するべきではないという議論も巻き起こる一方、SNSではこの実行犯のものと思われるアカウントが発見されており、彼の政治思想が明らかになりつつある。

実行犯は「制限選挙撤廃」を主張するナショナリスト

報道によれば、実行犯は地元の自民党市議会議員の集会に出席しており、選挙供託金の撤廃や、被選挙権年齢の引き下げを主張していたという。彼のものとみられるSNSのアカウントでも、被選挙権を得る年齢の高さや供託金の高額さだけでなく、世襲政治家の多さや特定の宗教との癒着なども念頭に置いたうえで、「日本で行われているのは制限選挙であり、普通選挙は行われていません。国民が立候補出来なければ政治腐敗が横行するのは当たり前です」と主張していた。彼は、被選挙権年齢の規定や供託金のせいで参議院選挙に立候補出来なかったと主張し、国に対して損害賠償を求める裁判を起こしていたことも明らかになっている。事件はこの訴えが高裁で棄却された数日後に発生している。

また彼は、外国人留学生の「優遇」を批判し、多様性を認めるか否かは選挙結果で判断されるべきだと杉田水脈議員に対するリプライで主張していたことから、国粋主義的ナショナリストとしての側面を持っていることもわかる。

「制限選挙」に憤ったとしても

人類の歴史をみれば、貴族や富裕層ではない普通の人々が参政権を獲得するためには相当の血が流されている。ときにはテロなどの暴力が用いられてきたこともあり、我々の選挙権はそうした苦闘に末に獲得されたものだということは忘れられてはならない。

だが、この青年が求める「被選挙権年齢の引き下げ」「供託金の撤廃」といった政策がいかに民主主義のためでも、物理的な暴力を用いて成し遂げようとすることは許されない。世界を見れば18歳以上で地方議員や国会議員になれる国も多く、また日本の供託金が高額なのも間違いない。世襲政治家や統一教会との癒着問題も無視されてはならない。とはいえ、もし彼の動機がこのようなものであったとしても、こうした理由はこの青年が極端な選択をしたことについて正当性を与えるものではない。このことは強調しておく必要があるだろう。

プロフィール

藤崎剛人

(ふじさき・まさと) 批評家、非常勤講師
1982年生まれ。東京大学総合文化研究科単位取得退学。専門は思想史。特にカール・シュミットの公法思想を研究。『ユリイカ』、『現代思想』などにも寄稿。訳書にラインハルト・メーリング『カール・シュミット入門 ―― 思想・状況・人物像』(書肆心水、2022年)など。
X ID:@hokusyu1982

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

パキスタンとアフガン、即時停戦に合意

ワールド

台湾国民党、新主席に鄭麗文氏 防衛費増額に反対

ビジネス

テスラ・ネットフリックス決算やCPIに注目=今週の

ワールド

米財務長官、中国副首相とマレーシアで会談へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本人と参政党
特集:日本人と参政党
2025年10月21日号(10/15発売)

怒れる日本が生んだ「日本人ファースト」と参政党現象。その源泉にルポと神谷代表インタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 3
    ニッポン停滞の証か...トヨタの賭ける「未来」が関心呼ばない訳
  • 4
    ギザギザした「不思議な形の耳」をした男性...「みん…
  • 5
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 6
    大学生が「第3の労働力」に...物価高でバイト率、過…
  • 7
    【クイズ】世界で2番目に「リンゴの生産量」が多い国…
  • 8
    【インタビュー】参政党・神谷代表が「必ず起こる」…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 2
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以外の「2つの隠れた要因」が代謝を狂わせていた
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 5
    中国人が便利な「調理済み食品」を嫌うトホホな理由…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    メーガン妃の動画が「無神経」すぎる...ダイアナ妃を…
  • 8
    時代に逆行するトランプのエネルギー政策が、アメリ…
  • 9
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 10
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    カミラ王妃のキャサリン妃への「いら立ち」が話題に...「少々、お控えくださって?」
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 6
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 7
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 8
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本人が唯一「受賞していない」ノーベル…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story