コラム

「名前はまだない」パレスチナの蜂起

2015年10月27日(火)15時20分
「名前はまだない」パレスチナの蜂起

93年のオスロ合意以降もパレスチナの憤懣はくすぶり続けてきた(治安部隊の催涙弾を投げ返そうとするパレスチナの若者) Mohamad Torokman-REUTERS

「イスラーム国」やシリア難民のヨーロッパ流入、ロシアのシリア内戦への介入など、数々の戦争報道が飛び交うなか、イスラエル・パレスチナの話題はすっかり影に隠れた感がある。だが、その間イスラエルの入植が止まったわけでも、パレスチナ人の憤懣が収まったわけでもなく、ずっと衝突は続いてきた。

 それが急に、メディアの注目を浴びたのは、10月に入ってからである。イスラエル政府は、9月中旬のユダヤ暦正月のために、エルサレムのアルアクサーモスクからパレスチナ人を排除した。これをきっかけとして、パレスチナ人とユダヤ人入植者の間の衝突が頻発したのである。10月以降25日までの間に、イスラエル8人、パレスチナ56人が命を落とし、イスラエル83人、パレスチナ側2000人以上が負傷した。メディアのなかには、「とうとう第三次インティファーダが始まった」と報じるものも少なくない。

 衝突の激化に国際社会が動いたのは、10月20日。パン・ギムン国連事務総長が突然エルサレムを訪問し、同日にはネタニヤフ・イスラエル首相と、翌日にはアッバース・パレスチナ自治政府議長と会談した。翌日には、ユネスコの執行委員会が、世界遺産である聖地の管理を巡ってイスラエルを批判する決議を採択している。さらに22日にはケリー米国務長官がドイツでネタニヤフ首相と会った後、23日にはウィーンでロシア、EU、国連と対応を協議した。

 だが、いったい何が問題になっているのか。何故突然、対立がエスカレートしたのか。

 根本的な問題は、1993年のオスロ合意以降も一向に退去しないどころか、ますます増加するイスラエルの入植地にある。入植地住民とそれを「守る」イスラエルの治安部隊に対して、それらに生活空間を脅かされ続け、将来も今も展望の見えない環境に置かれた西岸やガザ、東エルサレムなどのパレスチナ人は、過去二回のインティファーダで憤懣を爆発させてきた。2001年以降は、圧倒的なイスラエルの力と国際社会の無視の前に、パレスチナ人の抵抗は押しつぶされ、数年毎に勃発するガザでのハマースによるイスラエル攻撃を除けば、あたかも勝負はついたかのようだった。だが、それでもパレスチナ各地で、反発と抵抗と不満の爆発は繰り返し発生していた。

プロフィール

酒井啓子

千葉大学法政経学部教授。専門はイラク政治史、現代中東政治。1959年生まれ。東京大学教養学部教養学科卒。英ダーラム大学(中東イスラーム研究センター)修士。アジア経済研究所、東京外国語大学を経て、現職。著書に『イラクとアメリカ』『イラク戦争と占領』『<中東>の考え方』『中東政治学』『中東から世界が見える』など。最新刊は『移ろう中東、変わる日本 2012-2015』。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

高市首相、トランプ米大統領と電話会談 今春訪米を調

ビジネス

独製造業PMI、12月改定47.0に低下 10カ月

ビジネス

ユーロ圏製造業PMI、12月48.8に縮小 9カ月

ワールド

イランで大規模デモ、景気低迷への抗議で死者も トラ
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 2
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙」は抑止かそれとも無能?
  • 3
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と考える人が知らない事実
  • 4
    感じのいい人が「寒いですね」にチョイ足ししている…
  • 5
    【現地発レポート】米株市場は「個人投資家の黄金時…
  • 6
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 7
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 8
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
  • 9
    日本人の「休むと迷惑」という罪悪感は、義務教育が…
  • 10
    「断食」が細胞を救う...ファスティングの最大効果と…
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめる「腸を守る」3つの習慣とは?
  • 3
    前進するロシア、忍び寄る限界...勝者に見えるプーチン、その先は袋小路か
  • 4
    中国軍の挑発に口を閉ざす韓国軍の危うい実態 「沈黙…
  • 5
    マイナ保険証があれば「おくすり手帳は要らない」と…
  • 6
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 7
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 8
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 9
    なぜ筋肉を鍛えても速くならないのか?...スピードの…
  • 10
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 6
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
  • 10
    「腸が弱ると全身が乱れる」...消化器専門医がすすめ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story