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カナダからの呟き

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大統領選でカナダに移住したがるアメリカ人が急増する件

lukbar-iStock

長かった米国の大統領選がやっと終わった。世界で最も力をもつ国の一つである米国の大統領選があそこまでウダウダなのも恐怖だが、強大な国であるからこそ、ある程度狂気の入った人間にしか大統領は務まらないのであろうか?

米国の大統領選の結果は隣国のカナダにも大きい影響を及ぼすため、カナダでも注目度は高いが、多くのコメントは「トルドー首相に満足していないが、アメリカの大統領選を見るとカナダが如何に素晴らしい国かを痛感する」といった皮肉が多かった。

カナダは公用語が英語とフランス語なので党首討論もこの2ヶ国語で行われる。足の引っ張り合いや悪口合戦もあるのの、米国に比べると選挙運動期間は短く、討論ももっと理路整然と知的に行われる印象である。

大統領選の結果如何でカナダに移住したがるアメリカ人

さておき、4年に一度の大統領選の前後に恒例になっている事がある。アメリカ人によるカナダ移民局サイトへのアクセスによるサーバーダウンである。大統領選前後に米国の将来や政治に不安や絶望を抱いた人が「カナダに引っ越してみるのはどうだろうか?」と思い立ち、カナダへの移住を調べ始め、結果としてカナダの移民局のサイトをアクセス過多でサーバーダウンさせてしまうのである。2016年には大統領選挙日にカナダ移民局サイトがダウンしてしまったのだが、さすがに対策が講じられたのか、今年はサイトがクラッシュすることはなかったようである。アクセス数は大統領選前後で爆発的に増えるそうだが、実際にアメリカからカナダへ移住した人の数には例年とそれほど違いがでないそうだ。

大統領選前に米国のスポーツ選手やハリウッドスターの中にも「トランプ氏が再選したらカナダに引っ越す」とコメントを出す人たちもいた。これは今回に始まったことではなく、ブッシュ元大統領の時もこういうコメントはこぞって出されていた。

面白いのが大統領選でカナダに来たがる人々はリベラルと言われる民主党支持派にも、保守派と言われる共和党支持派のどちらにも存在する。アメリカ人においてカナダは『極端な方向に走らない中庸的な良き隣人』というイメージがあるようだ。積極的に移住を考えるわけではないか、何かあった時に移住するのはやぶさかでない、といった感じである。実際に英語圏であるし、アメリカの番組は普通にケーブルで観れるし、『カナダはアメリカの51番目の州』的に捉えている人も多い印象である。一方でカナダが「北の方」「寒いところ」などと皮肉られるのも事実である。

アメリカ人のカナダ移住の歴史

政治的な理由でアメリカ人がカナダへ移住するのは歴史がある。

例えば、知人の父君はベトナム戦争の時に米国に失望してカナダに移住したそうだ。ベトナム戦争時、アメリカ軍は志願兵制度と徴兵制度を併用していたので、『人殺しに行かなければならない』という現実に打ちのめされたそうだ。友人家族はカナダに移住したというその選択肢が正しかったと思っており、この決断と移住を実行したことを誇りに思っているそうである。

2005年にカナダで同性結婚が認められた時に、米国から移住してきた人たちもいる。同性婚が法的に認められたのはカナダの連邦法で2005年、米国では連邦法で2015年。各国とも州法ではもっと早かったが、連邦法で認められるまでに、カナダと米国では施行に10年の差がある。

実際に移住する難易度

カナダと米国の間には強固な貿易関係があり、毎年大量の製品と人が国境を行き来している。米国、カナダ、メキシコ間にはNAFTA(北米自由貿易協定)があるので、比較的、TNNAFTAプロフェッショナル)ビザは取りやすい。しかし仕事のオファーを必要とする。よって、ビザを取るのが容易である訳ではない。さらにこれらのTNビザは永続的なものではない。継続的な移住を志すのであれば、いずれかの時点で永住権(カナダではパーマネント・レジデンス・ビザと呼ばれる)を目指さなくてはいけないのだが、これは学歴や仕事の専門度で審査されるので、世界中の選抜熟練労働者と競う必要がある。よって、他国に比べればビザ取得の難易度は低いが簡単という訳ではない。

配偶者の一方がカナダ人だとファミリービザが取れるので、ビザ取得の難易度は下がる。真偽のほどは不明だが、大統領選前後にはデーティングサイトでカナダ人パートナーを探すアメリカ人が増えるという噂もある。

移住は不可能ではないが、ビザが必要になるので国内で引っ越すよりは面倒である。このビザの問題さえクリアできれば、他国に比べるとカナダはアメリカ人にとって移住しやすい国ではあるはずだ。

コロナ禍による影響

現在、米国とカナダの国境は閉鎖されている(流通などいわゆるエッセンシャルビジネスでの行き来は可能)。これはカナダ側が強く願い米国を説得したところも大きい。実際にトランプ氏が「国境は再開する」と発言したことは何度かあった。カナダと合意に至る前にこの発言をしてしまうのである。その度にカナダの提案で国境閉鎖延長の同意に達し今でも閉鎖が続いている。アメリカという世界最大新型コロナウイルス感染国を隣国に持つカナダの苦労といったらない。

なので、アメリカ人がカナダに移住したくても、現時点では移住どころか、国境を越えるのもかなり難しいのである。

"カナダ人がアメリカ人を招待した訳ではない"

国境警備を担当する米国のバンゴーメイン州警察署がfacebookで選挙の結果如何でカナダ移住を目指すアメリカ人に向けたアドバイスが秀逸であった。"You should also keep in mind that the Canadians did not really invite you to come over anyway."(カナダ人があなた方を招待したわけではありません。心に留めておいてください)。まさに!である。カナダはアメリカのよき隣国ではあるが、アメリカ人を招待している訳ではないのだ。

米国のバンゴーメイン州警察署がfacebookコメントは:https://www.facebook.com/bangormainepolice/posts/10159082539916079

隣国に移住するという発想

大統領選でカナダに移住するとは自国の問題に背をむける行為のような気もするのであるが、なにせ米国とカナダは8000キロ以上の国境を接し、さらに大量の人やモノが行き来している間柄なのである。ビザの問題を除けば、外国に移るというよりは別の州に引っ越すという感覚なのかもしれない。これはアメリカ人のみならず、カナダ人にも言えることで、職探しなどは米国を視野に入れる人が殆どである。子育てはカナダ、稼ぐのは米国、老後はカナダ、という人たちもかなり存在し、2国間を行き来する。なのでカナダに住むというのはアメリカ人にとっては身近なひとつの選択肢で、大統領選がその引き金になるのであろう。『似て非なる隣国』は自国を別視点で見つめ直すのに最適な存在なのかもしれない。

 

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著者プロフィール
m

カナダに棲む女。食事においての最後の一品は自分が食べたい。寒がりなのにカナダに移住。英語が苦手なのにカナダに移住。フランス語が喋れないのにカナダに移住。

著書、『毒の滴』が販売中です。

ブログ:毒の滴(したたり)

Twitter: @poisondrop333

Instagram: drippingofpoison

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