最新記事
格差社会

「平均は格差を隠す」平均値だけを見ても格差の実態は見えない

2024年8月21日(水)11時45分
舞田敏彦(教育社会学者)
格差社会

日本社会の格差拡大、二極分化が進んでいる現状を平均値では可視化できない photoAC

<高齢世帯の平均貯蓄額は1652万円だが、中央値は700万円で平均値の半分にも満たない>

データというのは、最初は数字の羅列で、これを整理する第一歩は度数分布にすることだ。いくつかの階級を設定し、各々に当てはまるケースの数をカウントする。こうすることで、多いのはどの辺か、ボリュームゾーンはどの辺りかの見当がつく。

端的に説明する際は、全体の傾向を一つの数値で表した代表値を用いることが多い。よく使われるのは平均値だ。「中学校2年生男子の平均身長は●センチ」。こういう情報をもとに、普通の男子中学生の発育度合いを知り、個々の生徒は自分が普通と比べて大きいのか(小さいのか)を判断する。要は、普通を知るための目安だ。

しかし平均値ばかりを見ていると、現実の認識が歪められることがある。分布の形が歪な場合で、いい例は高齢世帯の貯蓄額だ。2022年の厚労省『国民生活基礎調査』によると、世帯主が65歳以上の高齢世帯の平均貯蓄額は1625万円。ガッツリ貯め込んでいる印象だが、ここまで多いかと疑問に思う人もいるだろう。高齢者の生活苦は、よく報じられているではないかと。

平均値に丸める前の元の分布を見ると<図1>のようになる。

newsweekjp_20240821021443.png


最も多いのは貯蓄3000万円以上の世帯だが(全体の16.5%)、その次に多いのは貯蓄ゼロの世帯だ(12.9%)。ガッツリとスッカラカンに割れている。高齢層では、貯蓄格差がはっきりとしている。

貯蓄3000万以上の階層には、5000万円、1億円、10億円というような超富裕層も含まれる。報告書に出ている平均値(1625万円)は、こうした極端なケースによって吊り上げられたものに他ならない。「平均は格差を隠す」とは、よく言ったものだ。

単一の代表値を使うなら中央値のほうがいい。データを高い順に並べたとき,ちょうど真ん中に来る値だ。上図のデータから、高齢世帯の貯蓄額の中央値(累積%値=50)を計算すると700万円で、平均値の半分にも満たない。平均値と中央値の乖離は、散らばり(格差)が大きいことの表われだ。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米首都近郊で起きた1月の空中衝突事故、連邦政府が責

ワールド

南アCPI、11月は前年比+3.5%に鈍化 来年の

ワールド

トランプ氏、国民向け演説で実績強調 支持率低迷の中

ワールド

ドイツ予算委、500億ユーロ超の防衛契約承認 過去
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 5
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 6
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 9
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 10
    【銘柄】「日の丸造船」復権へ...国策で関連銘柄が軒…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 5
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 6
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 7
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 10
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中