最新記事
アルゼンチン

アルゼンチンの右派ポピュリスト次期大統領、ハビエル・ミレイが社会的対立に対処する2つの方法

2023年11月28日(火)12時40分
ミラグロス・コスタベル(ジャーナリスト)
次期大統領のミレイは混迷する経済と社会を立て直せるか MATIAS BAGLIETTOーREUTERS

次期大統領のミレイは混迷する経済と社会を立て直せるか MATIAS BAGLIETTOーREUTERS

<次期大統領が直面する経済と社会の問題はかつてなく大きい>

アルゼンチンの大統領選決選投票で、右派のポピュリスト、ハビエル・ミレイが予想外に快勝した。だが、国内経済の抜本的な改革を公約に掲げるこのリバタリアン経済学者の前途は厳しい。今年9月にはインフレ率が前年同月比138%上昇し、国民の40%以上が貧困にあえぐなか、次期大統領が直面する経済と社会の問題はかつてなく大きい。

現職のフェルナンデス大統領が就任した4年前、アルゼンチンは既に長期的な危機に陥っていた。インフレ率は55%に達し、国民の3分の1が貧困状態にあった。現政権はさらに大きな危機を引き起こし、公的債務の借り換えの必要性から高水準の赤字まで、多くの経済問題がこの国を克服不可能とみられる状況に追い込んでいる。

「こうした事態は長年の過ちが原因だ」と国際経済学者のマルセロ・エリソンドは言う。「この20年間に生じたのは、公共支出の大幅な拡大、個人、企業、社会組織への多額の補助金、国際的孤立主義と保護主義、マクロ経済の持続可能性の欠如だ」

こうした「過ち」が、暴走するインフレと4000億ドル超の公的債務を生み出した。

日々の買い物も著しく不安定だ。個人輸入業を営むレオ・ヘルーダは、「スーパーマーケットでは、価格が常に変動しているため表示されなくなり、買い物をする上での計画やお金の管理すらできなくなっている」と話す。

不確実な状況は多国籍企業の撤退も招いている。航空会社、スーパー、テクノロジー企業など20社以上が撤退し、何千人もが職を失った。

失業率は6.2%だが、雇用のほぼ半分は非公式セクターに属する。労働者の27%は保護も手当もない非公式な雇用で、22%が自営業だ。多くの労働者は、路上で食べ物を売ったり、「チャンガ」と呼ばれる日雇いの仕事をしている。

「5年前のアルゼンチン人は、将来について考えていた」と経済学者のフェルナンド・モイゲルは言う。「今日では、社会階層に関係なくそれができなくなっている」

最も弱い立場にある人々は、基本的な日用品を手に入れられず、影響はそれにとどまらない。子供の貧困率は56%に上る。アルゼンチン・カトリック大学の政治・国際関係学部教授で、貧困層の子供を支援する団体の幹部も務めるマリア・ソフィア・メイヒデは、「親が仕事を増やさなければならず、子供の活動への関与が減っているため、学校に行く子供が減少している」と指摘する。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生きる力」が生んだ「現代医学の奇跡」とは?
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    メーガン妃の「下品なダンス」炎上で「王室イメージ…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中