最新記事

経済制裁

冬に向けて「脱ロシア化」準備中──じわじわ効果を上げる経済制裁

Russian Sanctions Are Working but Slowly

2022年8月2日(火)12時13分
オレグ・コレノク(バージニア・コモンウェルス大学教授)、スワプニル・シン(リトアニア銀行エコノミスト)、スタン・ボイガー(アメリカン・エンタープライズ研究所上級フェロー)
ユニクロ

外国企業が撤退し、ロシア経済はじわじわと弱体化 OLEG NIKISHIN/GETTY IMAGES

<為替も石油収益も好調なロシア。しかし、欧州がエネルギーの「脱ロシア化」を急ピッチで進めているため徐々に経済活動は滞り、軍事力にも影響が及んでいる。あとはスピードアップだけ>

ロシアのウクライナ侵攻から5カ月、アメリカとその同盟国による空前の経済制裁がもたらす効果について、当初の楽観的な見方は色あせ始めている。

通貨ルーブルは2月上旬の1ドル=75ルーブルから3月には135ルーブルまで下がったが、5月末には侵攻前を上回る55ルーブルに急上昇。生産高も、好調とは言い難いが、大打撃を受けているわけではない。

それはつまり、制裁が失敗だったことを意味するのだろうか。いや、そうは言えない。

軍事侵攻に対して科した制裁とはいえ、制裁自体は経済的なものであるが故に、軍事攻撃のような速度で効果が表れることを期待してはいけない。制裁の目的は、ロシアの経済活動を抑制し、それを軍事力の抑制につなげることだ。

だがそれも、一夜にして実現はできない。欧米企業のロシア撤退など、ロシア経済を弱体化させる措置が、兵士への給与支払い能力を奪い、兵器製造能力を低下させる。

輸出制限は外国からの兵器・技術購入力を損なう。輸入制限は産業設備の維持を困難にし、ハイテク兵器製造を妨げる。ダメージは徐々に進み、ロシアの兵站(へいたん)と技術力をじわじわと痛めつける。ロシア政府もそれに気付いているだろう。

彼らが東部攻略に固執する理由もそこにある。戦争遂行能力が尽きる前に、何らかの勝利を収めたいからだ。つまり、ロシア経済は既に大打撃を受けている。株式市場は2月以降、大幅に縮小し、大手多国籍企業は撤退。為替相場の回復も、(ルーブル払いを強制する)政府の金融的抑圧の結果にほかならない。

さらに踏み込んだ規制を

ただ、プーチン政権にとって唯一の希望はいまだ健在だ。国際エネルギー機関(IEA)は5月、ロシアの石油収益が年初比で50%上昇したと発表した。アメリカとEUへの石油輸出が消えても、急激な価格高騰と、インドと中国による購入増加で十分に埋め合わせできているのだ。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

韓国特別検察官、尹前大統領の拘束令状請求 職権乱用

ワールド

ダライ・ラマ、「一介の仏教僧」として使命に注力 9

ワールド

台湾鴻海、第2四半期売上高は過去最高 地政学的・為

ワールド

BRICS財務相、IMF改革訴え 途上国の発言力強
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    アリ駆除用の「毒餌」に、アリが意外な方法で「反抗」...意図的? 現場写真が「賢い」と話題に
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 5
    コンプレックスだった「鼻」の整形手術を受けた女性…
  • 6
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 7
    「シベリアのイエス」に懲役12年の刑...辺境地帯で集…
  • 8
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 9
    孫正義「最後の賭け」──5000億ドルAI投資に託す復活…
  • 10
    ギネスが大流行? エールとラガーの格差って? 知…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 6
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 7
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 10
    普通に頼んだのに...マクドナルドから渡された「とん…
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 5
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 6
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 9
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 10
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中