最新記事

テロ対策

比ドゥテルテを悩ますイスラム教武装組織アブサヤフ 誘拐された医師、銃撃戦の末救出

2020年3月27日(金)10時28分
大塚智彦(PanAsiaNews)

難問山積のフィリピン・ドゥテルテ。Eloisa Lopez - REUTERS

<新型コロナウイルス対策に追われるドゥテルテを悩ますもう一つ存在は......>

フィリピンの治安当局は25日、今年2月に正体不明の武装集団に誘拐されて行方不明となっていたフィリピン人男性医師を武装集団との銃撃戦の末、24日に救出したことを明らかにした。医師は軍の医療施設でメディカルチェックを受けているが、これまでのところ負傷もしておらず、健康状態に問題はないという。

フィリピン南部スールー州ホロ島にあるホロ市でクリニックを運営するダニエル・モレノ医師は2月4日夜、自宅を兼ねたクリニックから銃で武装して警察官や兵士に変装した正体不明の男性4人に誘拐され、その後行方不明となっていた。

地元治安当局では武装した男性らはスールー州などフィリピン南部で治安部隊との衝突やマレーシア人、インドネシア人の漁民などの誘拐を繰り返しているイスラム教武装組織でテロ組織にも指定されている「アブサヤフ」の一派に属するメンバーによる犯行が濃厚と判断して、捜索活動と同時に情報収集に着手した。

犯行直後に目撃者などが証言した誘拐に使用された車両は近郊の町で発見されたもののモレノ医師に消息に関しては有力な手掛かりはつかめていない状況が続いていたという。(参照=2月7日、フィリピン南部で医師誘拐 軍と野戦闘で負傷者がいるイスラム系テロ組織の犯行か)

ジャングルでの銃撃戦で救出

そうした膠着状態が続いていた中、24日夜にスールー州南部のインダナン町郊外のバンガラン地区に広がるジャングルを夜間パトロールしていた軍と警察の合同部隊がアブサヤフ系のメンバーとみられる武装グループと突然遭遇し、その場で激しい銃撃戦となったという。

現地治安当局者が地元記者に明らかにしたところによると、数分間続いた銃撃戦の末武装グループは後退、逃走をはじめた。パトロール中の治安部隊がその追跡に移ったところ、武装グループ側から1人の男性が治安部隊の側に逃れてきたという。確保したその男性の身元を確認したところ誘拐されたモレノ医師だったという。

この時の銃撃戦では双方に死者は出ず、武装グループはモレノ医師を現場に残してジャングルの中に行方をくらませたという。

治安当局では誘拐事件の発生当初からモレノ医師を誘拐した目的は1月18、19日に南部タウイタウイ州で発生した政府軍とアブサヤフとの戦闘でアブサヤフ側に多くの負傷者がでたことから治療・手当に当たる医療関係者が必要になり、その為にモレノ医師が誘拐されたとみていた。

しかし、その後モレノ医師の解放を条件とした身代金(約8万ドル)の要求があったとの情報もあり、身代金目的の誘拐との見方もでたが、モレノ医師を誘拐したグループと身代金を要求したグループが全く別の組織である可能性も浮上するなどして捜査は進まない状態が続いていた。

治安当局では今後モレノ医師から詳しい事情を聞いて犯行グループの特定や潜伏の可能性のある場所、誘拐の目的などを調べる方針という。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

トランプ氏、アイオワ州訪問 建国250周年式典開始

ビジネス

米ステーブルコイン、世界決済システムを不安定化させ

ビジネス

オリックス、米ヒルコトレーディングを子会社化 約1

ビジネス

米テスラ、6月ドイツ販売台数は6カ月連続減少
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプvsイラン
特集:トランプvsイラン
2025年7月 8日号(7/ 1発売)

「平和主義者」のはずの大統領がなぜ? 核施設への電撃攻撃で中東と世界はこう変わる

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギに挑んだヘビの末路
  • 2
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 3
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコに1400万人が注目
  • 4
    【クイズ】「宗教を捨てる人」が最も多い宗教はどれ?
  • 5
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 6
    ワニに襲われた直後の「現場映像」に緊張走る...捜索…
  • 7
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 8
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた…
  • 9
    吉野家がぶちあげた「ラーメンで世界一」は茨の道だ…
  • 10
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 1
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で大爆発「沈みゆく姿」を捉えた映像が話題に
  • 2
    ワニに襲われた男性の「最期の姿」...捜索隊が捉えた発見の瞬間とは
  • 3
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 4
    突然ワニに襲われ、水中へ...男性が突いた「ワニの急…
  • 5
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 6
    「飲み込めると思った...」自分の10倍サイズのウサギ…
  • 7
    夜道を「ニワトリが歩いている?」近付いて撮影して…
  • 8
    仕事ができる人の話の聞き方。3位は「メモをとる」。…
  • 9
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 10
    砂浜で見かけても、絶対に触らないで! 覚えておくべ…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 3
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 4
    妊娠8カ月の女性を襲ったワニ...妊婦が消えた川辺の…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事…
  • 7
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 8
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 9
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 10
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中