最新記事

香港のこれから

【デモ隊の告白4】「僕は会社にも行くが、闘争こそが真実」フル装備の香港人男性

CONFESSIONS OF A MASK

2019年11月28日(木)11時40分
ビオラ・カン(写真・文)

PHOTOGRAPH BY VIOLA KAM

<香港がこの先どうなるか、まだ見通せない。これまで半年、香港のデモ参加者たちは何のために戦ってきたのか。本誌「香港のこれから」特集より>

香港で逃亡犯条例改正案に反対するデモが始まって6カ月。身の安全を守るため、デモ参加者のほとんどはマスクで顔を隠してきた。

時に暴徒と非難されながら、彼らは何のために戦ってきたのか。その素顔と本音を香港人の写真家・ジャーナリストが伝える。

本誌12月3日号(発売中)「香港のこれから」特集で取り上げた、15人のデモ参加者による「仮面の告白」。その1人をここに掲載する。

フル装備のデモ隊男性 陳泰明(26)

雨傘運動のときは、僕は香港にいなかった。今回街に出たのは、当時の「過ち」を償うためでもある。

何が正しくて何が間違っているのか区別しにくいときは、積極的に行動することこそが強権政治に対して必要な身構えだ。僕は会社にも行くが、闘争こそが真実だと感じている。自分が家に座ったまま「エアコン将軍(エアコンの効いた部屋で実際に行動する人を批判する者)」でいることには納得できない。

ほとんどの時間はデモの前線におり、主に防御役として動いている。武器の持ち手の後ろに待機するときもある。僕たちの行動を過激だと思う人もいるが、それは東洋人のふがいない思考を反映しているかもしれない。目の前にある社会価値に従うだけで、反抗することに慣れていない。

一番印象に残ったのは(数時間に及ぶ警察との攻防があった)7月28日。その日の戦いは惨敗とも言える。支援がないまま長時間の戦いに挑み、死んだような気分だった。

今回は雨傘運動のように、(デモ隊の)内部問題のせいで静かに幕引きされることはない。社会は既に引き裂かれ、政府や法執行機関との闘争は続く。火は付き、傷痕は消えず、永遠の恨みになった。政府側はデモ隊に対して暴力を過激化することで、より多くの問題を生んだ。終わらない運動になってもおかしくない。

<2019年12月3日号「香港のこれから」特集より>

※他のデモ参加者による「仮面の告白」:
【デモ隊の告白1】「前線にも行った。香港にはまだ希望を持っている」女子高校生
【デモ隊の告白2】「北京の仕事を辞めて香港に戻り、消火部隊に入った」25歳女性
【デモ隊の告白3】「民主はなくてもイギリス人は愛国心を押し付けなかった」運転手
【デモ隊の告白5】「この街が好きな理由を取り戻したい」香港人救急ボランティア
【デモ隊の告白6】「次の世代のために自分が銃弾を受け止める番」20歳女性
【デモ隊の告白7】「中国本土で生まれ、愛国心のある子供だったが」24歳男性
【デモ隊の告白8】「香港が中国のただの1つの省になってほしくない」中産階級の男性
【デモ隊の告白9】「警察を調査しないと、みんなの気が済まない」駅で花を供える女性
【デモ隊の告白10】「なぜ若者が遺書まで書き残し、立ち上がるのか」断食をした老人
【デモ隊の告白11】「レノンウォールの『成長』に衝撃を受けた」見守る香港女性たち
【デモ隊の告白12】「プロテスタントとカトリックが支援に駆け付けた」香港の牧師

20191203issue_cover150.jpg
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

12月3日号(11月26日発売)は「香港のこれから」特集。デモ隊、香港政府、中国はどう動くか――。抵抗が沈静化しても「終わらない」理由とは? また、日本メディアではあまり報じられないデモ参加者の「本音」を香港人写真家・ジャーナリストが描きます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

OPEC月報、石油需要予想据え置き 年後半の世界経

ビジネス

米GM、ガソリンエンジン搭載ピックアップとSUV増

ワールド

トランプ氏「ベセント氏は次期FRB議長の選択肢」、

ビジネス

FRB、インフレ抑制へ当面の金利据え置き必要=ダラ
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 5
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 6
    アメリカで「地熱発電革命」が起きている...来年夏に…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    頭はどこへ...? 子グマを襲った「あまりの不運」が…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中