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「元徴用工判決」への誤解を正す ICJ提訴は必ずしも有利にならない

2018年12月7日(金)11時30分
木村 幹(神戸大学教授)※時事通信社発行の電子書籍「e-World Premium」より転載

韓国大法院で傍聴する元徴用工(10月30日) Kim Hong-Ji-REUTERS

10月30日の韓国大法院(日本の最高裁判所に相当)による、いわゆる元徴用工らの訴えに対する判決が出されてから早くも1カ月がたとうとしている。周知のようにこの判決は、日韓関係の基礎になる1965年の日韓基本条約とその一連の付属協定、とりわけ「請求権協定」と称される「財産および請求権に関する問題の解決ならびに経済協力に関する日本国と大韓民国との間の協定」を事実上無効化するものとして、大きな議論を呼んでいる。

とはいえ、この判決をめぐる問題がわが国で正確に理解されているか、と言えば必ずしもそうではない。例えばこの判決をめぐって「徴用工訴訟、賠償確定 韓国最高裁、個人請求権を認定」という表題で報じた新聞があった。恐らくその背後にあるのは、請求権協定をめぐる従前の議論である。これまで日韓両国の一部では、請求権協定により個人の請求権が消滅したか否かをめぐる議論があり、そこでは「この協定により直ちに個人の請求権が消滅した」という主張と、「協定は単なる国家の個人に対する外交的保護権の放棄にすぎず、個人の請求権は協定にもかかわらず残っている」という主張が対立してきた。

一見して明らかなように、先の記事の表題は、この議論の筋道に沿って「大法院が後者の議論を支持した」という認識の下に付けられている。そして、このような理解のあり方は、日本国内の多くのメディアコラム等に見られるものになっている。

日本企業に支払い問題生じない?

しかしながら実際には、このような議論は完全に的外れなものである。なぜなら、今回の大法院判決が元徴用工等の請求権を認めた論理は、 上記のものとは全く異なるものだからである。

今回の大法院判決が主張しているのは、次の二つである。第一に、請求権協定に至るまでの交渉において、日本政府は植民地支配に伴う不法行為の存在を認めておらず、故にこの不法行為により生じる慰謝料請求権は、請求権協定の枠外にある。第二に、日本の植民地支配は物理的な力によって強制された違法なものであり、それ故、その支配の一環として行われた行為は違法である。

そしてこの二つの論理を接続させた上で、日本統治の一環として行われた不法行為である戦時動員により生じた精神的苦痛に対する慰謝料は請求権協定の枠外にあり、故に元徴用工等の日本企業に対する慰謝料請求権は当然、残っているとするのである。

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