最新記事

難民

「自尊心だけが唯一残されたもの」...18歳で旧ソ連からアメリカに渡った私が支援活動で知った、ウクライナ難民の苦悩

I'm Helping Ukrainian Refugees

2024年02月24日(土)16時30分
マーシャ・ルーマー(ジャーナリスト)

「お願いはしたくない」

一方、英語を学ぶつもりは全くないという女性もいた。戦争が終わり次第、すぐに帰国したいというのだ。

「ありがとう。でも、英語は私たちに向いていない。祖国はウクライナ。希望は捨てたくない」

 
 

私はウクライナ人難民の就労許可申請書を英語に翻訳するボランティアも行っている。この手続きには410ドルの手数料を求められる場合がある。

ある中年女性はボランティアの弁護士との面談で無理に笑顔をつくり、事情を説明した。どんな職でもいいから仕事が欲しい、息子に負担をかけたくない、と。

「手数料の免除を申請したいですか」と、弁護士が尋ねた。私がウクライナ語に通訳すると、女性は言った。「はい、よろしくお願いします」

ところが、息子が口を挟んだ。「お願いはしたくない。お金はなんとかすればいい」

母親は訴えるような目で息子を見た。最終的に息子は免除を申請することに同意し、私の通訳を介さず、片言の英語で弁護士に返答した。

戦争で多くを失った少年に残されているのは、もはや自尊心だけだったのだろう。

そうした感情は、ほかの多くのウクライナ人たちの言葉や視線の端々にも感じ取れた。言葉で語られずとも、戦争の悲劇がそうした場の空気を満たしていた。

ニューズウィーク日本版 高市早苗研究
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2025年11月4日/11日号(10月28日発売)は「高市早苗研究」特集。課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

ステファニク下院議員、NY州知事選出馬を表明 トラ

ビジネス

米ミシガン大消費者信頼感、11月速報値は約3年半ぶ

ワールド

イラン大統領「平和望むが屈辱は受け入れず」、核・ミ

ワールド

米雇用統計、異例の2カ月連続公表見送り 10月分は
あわせて読みたい

RANKING

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    4割の子どもにできていない「健全な愛着形成」 良い…

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    エリザベス女王が「リリベット」に悲しみ、人生で最…

  • 5

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 1

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 2

    ハリウッド大注目の映画監督「HIKARI」とは? 「アイ…

  • 3

    2100年に人間の姿はこうなる? 3Dイメージが公開

  • 4

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

  • 5

    3.11から9年、福島の避難指示区域は野生動物の楽園に

  • 1

    「エプスタインに襲われた過去」と向き合って声を上…

  • 2

    残忍非道な児童虐待──「すべてを奪われた子供」ルイ1…

  • 3

    「恐ろしい」...キャサリン妃のウェディングドレスに…

  • 4

    やはり「泣かせた」のはキャサリン妃でなく、メーガ…

  • 5

    「SNSで話題の足裏パッドで毒素は除去されない」と専…

MAGAZINE

LATEST ISSUE

特集:高市早苗研究

特集:高市早苗研究

2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える