コラム

安倍元首相の国葬、9月実施というタイミング

2022年07月20日(水)13時40分

安倍元首相の出棺を沿道で見送る人たち(7月12日) Issei Kato-REUTERS 

<警備上の不安の払拭、事件の真相究明、現状の各国政治の空白などの要素を考慮すれば、国葬の秋実施の理由は理解できる>

安倍元首相の国葬は、9月下旬に日本武道館で挙行されるようで、具体的には27日を中心に調整されているようです。今回の国葬について、木原誠二官房副長官は、「国民に『必ず喪に服してください』と強制するものではない」というコメントを出しています。当たり前と言えば当たり前ですが、適切なコメントだと思います。賛否両論があるのも健全なことです。故人の神格化への懸念もあるようですが、キャラクター的にもそうはならないでしょう。

基準が曖昧なことが問題になっていますが、総理大臣の在任期間が憲政史上最長であったことは、一つの決め手になるのではないかと思います。この点に関して言えば、行政府の長について、暫定的な評価をするわけですから、在任期間という客観的な指標で決めるというのは一種の逃げになるという考え方もあります。

ですが、現在の日本というのは価値観や政治イデオロギーの幅が広すぎるので、世論の過半数を納得させられる主観的な判断基準というのは実に難しいと思います。少なくとも、吉田茂の前例を考えれば、在任期間で決めるという考え方は成立するように思います。

ところで、この9月27日前後というタイミングになったことで、様々な効果が期待できます。葬送というのは、静かであるべきかもしれませんが、国の行事として長く総理の仕事をした方を送る以上は、国際的、社会的な意味合いがどうしても出て来ます。その限りにおいては良い効果が期待できることに越したことはありません。

謎が謎を呼ぶ事件の背景

1つ目は警備上の安心感です。国葬となれば、国外から相当なレベルの要人が多数来日することになると思います。その一方で、現時点では、日本国内の要人警護の体制というのは、安倍氏殺害というショッキングな事件の結果、国内外から厳しい評価がされています。今から2カ月という時間は、それを立て直し、各国要人が安心して来日できるようにするには、やはり必要であると思われます。これを実現するためには、事件の真相解明や、担当大臣である国家公安委員長に関する適切な人事などが求められるからです。

2つ目は、事件の真相究明という問題です。現時点では、事件を取り巻く様々な問題について、十分に真相が解明されたとは言えません。言ってみれば謎が謎を呼んでいると言えます。周辺の問題に切り込むことは、犯人の心理を正当化するという論理で解明に抵抗する勢力なども、依然として活動しているようです。最悪の場合は、様々な勢力の思惑から、真相解明が「尻すぼみ」になってしまう危険も否定できません。

ですが、国葬ということになれば、9月の下旬には各国の要人が参列し、その際には世界中のメディアが、忖度もタブーもなくこの事件を見つめ直すわけです。この「暗黙の外圧」と「2カ月という時間」というのは、事件の真相究明、そして取り沙汰されている日本政界への外国勢力の浸透という問題にメスを入れるために有効ではないかと思います。

プロフィール

冷泉彰彦

(れいぜい あきひこ)ニュージャージー州在住。作家・ジャーナリスト。プリンストン日本語学校高等部主任。1959年東京生まれ。東京大学文学部卒業。コロンビア大学大学院修士(日本語教授法)。福武書店(現ベネッセコーポレーション)勤務を経て93年に渡米。

最新刊『自動運転「戦場」ルポ ウーバー、グーグル、日本勢――クルマの近未来』(朝日新書)が7月13日に発売。近著に『アイビーリーグの入り方 アメリカ大学入試の知られざる実態と名門大学の合格基準』(CCCメディアハウス)など。メールマガジンJMM(村上龍編集長)で「FROM911、USAレポート」(www.jmm.co.jp/)を連載中。週刊メルマガ(有料)「冷泉彰彦のプリンストン通信」配信中。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

英GDP、第4四半期は前期比+0.1%で速報値から

ビジネス

フィッチ、ホンダの格付けをA‐に引き下げ 見通しは

ビジネス

豪ガス超過利得税に業界反発、投資意欲損なうと批判

ワールド

日・インドネシア両首脳、エネルギー安保の観点で連携
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
特集:日本企業に迫る サステナビリティ新基準
2026年4月 7日号(3/31発売)

国際基準の情報開示や多様な認証制度──本当の「持続可能性」が問われる時代へ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引、インサイダー疑惑が市場に波紋
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 5
    アリサ・リュウの自由、アイリーン・グーの重圧
  • 6
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 7
    初の女性カンタベリー大主教が就任...ウィリアム皇太…
  • 8
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 9
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反…
  • 10
    ビートルズ解散後の波乱...「70年代のポール・マッカ…
  • 1
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 2
    ヘンリー・メーガン夫妻の豪州訪問に3万6000人超の反対署名...「歓迎してない」の声広がる
  • 3
    「水に流す」日本と「記憶する」韓国...気候と地理が育んだ「国民意識の違い」とは?
  • 4
    三笠宮彬子さまも出席...「銀河の夢か、現実逃避か」…
  • 5
    記憶を定着させるのに年齢は関係ない...記憶の定着度…
  • 6
    中国の公衆衛生レベルはアメリカ並み...「ほぼ国民皆…
  • 7
    中国最大の海運会社COSCOがペルシャ湾輸送を再開──緊…
  • 8
    ロシア経済を支える重要な港、ウクライナのものと思…
  • 9
    映画『8番出口』はアメリカでどう受け止められた?..…
  • 10
    作者が「投げ出した」? 『チェンソーマン』の最終…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 4
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 5
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 6
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story