コラム

嵐の日本PRを外国人がメッタ切り

2011年08月19日(金)10時30分

「日本がここまで世界の笑いものになる例がほかにあるだろうか」――今週発売の本誌8月24日号掲載のコラム「嵐がニャーと鳴く国に外国人は来たがらない」は、こんな強烈な一文で始まる。

 この「Tokyo Eye」というコラムページには毎週、東京在住の外国人コラムニストが交替で寄稿している。今週のコラムを書いたのは東京在住の仏フィガロ紙記者、レジス・アルノー氏。コラムの内容は、観光庁が外国人観光客を誘致するために制作したPR映像を批判するものだ。

 このPR映像では、人気グループ「嵐」のメンバーがそれぞれ日本の観光地を訪れ、招き猫のまねをして「ニャー」と鳴く。PR映像の詳しい突っ込みどころについてはコラムをお読みいただければありがたいが、アルノー氏が問題視しているのは、この映像で外国人を魅了しようという観光庁の「勘違いぶり」だ。いわく、「日本はなぜ『最高の顔』で自分を売り込もうとしないのか。洗練された職人や建築家、知識人、画家、料理人ではなく、国内限定のスターを宣伝に使うなんて」。

 アルノー氏は以前も、「観光庁のPRサイトは日本の恥」というコラムで観光庁による外国人向けPRを批判したことがある。だが、アルノー氏の観光庁批判は日本に対する愛情の裏返しだ。彼にとって一連の批判は、日本人が「素晴らしい国を自らばかにする」のをなんとか阻止しようという孤独な抗議デモ。冒頭で紹介した今週号のコラムを編集していた際、私が「今回のコラムはあなたのcynic(皮肉っぷり)が炸裂してる!」とメールを送ると、「僕はcynicじゃなくてromantic(ロマンティスト)だ。自分のことを、『日本の最後のウヨク』だと思っている」というメールが返ってきた。

 アルノー氏は、問題のPR映像が世界133カ国・地域の国際空港や飛行機などで流れることを憂いてコラムを書いた。だが幸いなことに、私が先週、東欧を訪れた際に使ったパリ、プラハ、ブダペストの空港では「ニャーと鳴く嵐」にお目にかかることはなかった(個人的には、観光庁に「ニャー」とさせられた嵐のみなさんに同情している)。その代わりにパリのシャルル・ド・ゴール国際空港で真っ先に目に飛び込んできたのは、 イギリス銀行大手HSBCの巨大な看板広告だ。看板1枚につき各国のイメージを1つずつ描いたその広告で、日本のイメージとして描かれていたのは「漫画を読む相撲取」だった。なるほど、日本人が考える「日本」と外国人が描く「日本」には、いまだに大きな差があるようだ。

 とはいえ、アルノー氏自身は以前のコラム「観光庁のPRサイトは日本の恥」で、「日本の価値を決めるのは、その95%が醜い高層ビルなど形あるものではない。その周りに存在する人間だ」と書いている。それは、例えば「外国人が日常的に体験する数えきれないほどの親切や気遣いの心」だと。
 
「外国の印象を決めるのはその国で出会った人間」――これは、先日の東欧訪問でも身に染みて感じたことだ。数カ国語でメニューが記載されているようなレストランで実際の2倍の値段をぼったくられ、鉄道駅でスリに鞄を開けられるという体験をしたプラハよりも、出会った人すべてが親切だったウィーンのほうがどうしても印象がいい。プラハの街並みは美しく、親切な人にも会ったと思うのだが、残念なことに嫌な経験というのは1つでも強烈に記憶に残るもの。反対に外国で思いがけない親切や気遣いに出くわすと、それだけでその国の印象が数割増しで美化されることもあり得る(私が単純なだけかもしれないが)。
 
 こうした傾向は、外国人にも通じるようだ。例えば、ブダペストで訪れたハンガリー産ワインの店では「日本がとても好き」という店員に出会った。理由を聞くと、「この店に来る日本人客はワインにまつわる様々なことに通じていて、彼らにはワインを尊ぶ文化がある。それに比べて、欧米人は何十種類も試飲したあげく、酔っ払って床の上でつぶれてしまう」と肩をすくめた。ブダペストのタクシードライバーは、こちらが日本人だと分かると「偉大なマエストロ、小林研一郎!」とクラシック談義を始めた(小林はハンガリー国立フィルの桂冠指揮者)。

 スシやサケ、マンガやスモウもいいが、日本と言って「日本人」が出てくるとなんだか嬉しい。観光庁がPR映像など作らなくても、外国人にとっては日本人1人1人が広告塔になり得るということだ。もちろんそれは、いい意味でも悪い意味でも。ましてや、外国人に向けて「ニャー」などと鳴かなくても。


――編集部・小暮聡子

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