コラム

戦闘で勝ち目なしと悟ったプーチンが頼る「冬将軍」...エネルギー施設攻撃の姑息な狙い

2022年11月04日(金)17時35分
ウクライナエネルギー施設

ロシアのドローン攻撃を受けたウクライナのエネルギー施設(10月27日) State Emergency Service of Ukraine/Handout via REUTERS

<ウクライナで、エネルギーインフラを標的にした攻撃に重点を置き始めたロシア。なんとか「冬将軍」を味方につけたいとの狙いが透けて見える>

[ロンドン発]ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は11月3日の演説で「ロシアのエネルギーテロに耐えることが今、私たちの国家的課題である」と訴えた。ロシア軍は前線で戦果をあげられないため、冬将軍の到来を前に「エネルギーテロ」でウクライナ軍を後方から支えるウクライナ国民の動揺を誘っている。

「全国各地のエネルギーインフラに被害が出ている。今晩の時点だけでも約450万人が緊急安定化計画に基づいて一時的にエネルギー消費を停止している。エネルギー産業に対するテロに訴えたことはまさに敵の弱さを示している。戦場でウクライナに勝てないから、このような方法でウクライナ国民の士気や抵抗力を削ごうとしている」

「ロシアが成功することはない。大切なのは私たちがともに行動する能力を維持することだ。まずウクライナのすべての都市や地域で不必要な電気を使用しない。今は明るいショーケースや看板、広告などの照明が必要な時期ではない。エネルギー会社は消費者からエネルギー供給の不公平を指摘されたら、すぐに対応してほしい」と呼びかけた。

ここ数週間、ロシア軍はウクライナの電力施設に対して大規模な誘導ミサイルやカミカゼドローン(自爆型無人機)攻撃を仕掛けている。ゼレンスキー氏によると、発電所の3分の1が破壊された。その一方で、苦戦が続くロシア軍はドニプロ川右岸の南部ヘルソンから撤退する動きを見せる。ロシア軍の指揮官のほとんどがすでに撤退を終えているとの報道もある。

何百万人が電気、暖房、水を失ったまま

冬将軍は、ナポレオンのロシア遠征、スウェーデンとロシアの大北方戦争、ソ連がフィンランドに侵攻した冬戦争、第二次世界大戦でのモスクワの戦い、スターリングラードの戦いで大きく勝敗を分けてきた。冬将軍を味方につけた方が勝利を収める。ウクライナではロシア軍の攻撃に対抗すべく越冬準備が進められている。

天然ガスの輸送、地政学的リスクを専門にする英ICIS(インディペンデント・コモディティ・インテリジェンス・サービス)のオーラ・サバドゥス博士はICISのポッドキャスト(11月3日)で次のような見方を示している。

「10月に入ってから、ウクライナのエネルギーインフラはロシアによる誘導ミサイル攻撃を受け、送電線と発電能力の大部分が破壊された。何百万人の消費者が電気、暖房、水を失ったままになっている。欧州企業は天然ガスの輸入を開始し、ウクライナの地下施設への備蓄を一段と増やしている」

プロフィール

木村正人

在ロンドン国際ジャーナリスト
元産経新聞ロンドン支局長。憲法改正(元慶応大学法科大学院非常勤講師)や国際政治、安全保障、欧州経済に詳しい。産経新聞大阪社会部・神戸支局で16年間、事件記者をした後、政治部・外信部のデスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『欧州 絶望の現場を歩く―広がるBrexitの衝撃』(ウェッジ)、『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。
masakimu50@gmail.com
twitter.com/masakimu41

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

サハリン2のLNG調達は代替可能、JERAなどの幹

ビジネス

中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予想も下

ビジネス

日産と英モノリス、新車開発加速へ提携延長 AI活用

ワールド

ハマス、新たに人質3人の遺体引き渡す 不安定なガザ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story