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アングル:電力不足が産業直撃、熱波で露呈したベトナムの構造問題

2023年06月19日(月)07時11分

 6月13日、ベトナムが、熱波による電力不足に直面している。写真は2019年、ハノイで撮影(2023年 ロイター/Kham)

[ハノイ 13日 ロイター] - ベトナムが、熱波による電力不足に直面している。使用可能電力が設備容量の半分にまで落ち込んだ現状は、同国の構造的・官僚政治的な問題も浮き彫りにし、国際社会が気候変動対策の一環として拠出を表明した155億ドル(約2兆1850億円)の洋上風力発電の整備支援資金の実現にも進展が見られない事態となっている。

韓国のサムスン電子や台湾の鴻海精密工業といったテクノロジー企業の大規模工場を抱え、生産ハブとなっているベトナムだが、中国からの工場移転を検討する多国籍企業を誘致する上で鍵となる送電網の拡充には苦戦している。

「多くの工場では、深刻な停電で生産停止を余儀なくされたことがある。また、停電は頻繁に起こっている」と、在ベトナム韓国商工会議所のホン・ソン会長は指摘する。

「これはベトナムで操業する韓国企業にとって深刻な問題だ」

また、複数の欧州企業が今月、電力危機に早急に対応するよう政府に要請した。

豪州の非営利法人(NPO)クライメート・センターで東南アジアチームの責任者を務めるトラン・グエン氏はこう話す。

「電力不足に対処する上で、電力市場改革の意思決定を効率化し、より協調的に取り組むことが求められている」

だが、こうした背景があるにも関わらず、再生可能エネルギーがすぐにでも救世主になる可能性は低い。

人口およそ1億人のベトナムでは近年、太陽光発電の導入が急速に進められているものの、現在も石炭火力発電と水力発電に依存している。

国営ベトナム電力公社(EVN)の6月11日までの2週間平均を示したデータによると、通常の発電設備容量は80ギガワット(GW)近くあるが、熱波のピーク時には半分以下にまで低下。平常時の需要も満たせない程度になる。

EVNは2月、電力需要のピーク平均は2021年に42.5GWと、2006年の約4倍に増加したと発表。政府は、人口が多く工業化が進む北部を熱波が襲う中、4.35GWが不足していたと述べた。

EVNのデータによると、石炭火力発電所は6月4日の週に発電量全体の約60%を占めていた。また、リフィニティブのデータは、5月の石炭輸入量が約450万トンと、2020年6月以降で最多となったことを示している。

石炭火力による発電は、設備容量のおよそ25%が修理によって使用できる状態にないため、不足していると通商産業省は言う。

国内の電力供給量が2番目に多い水力発電は、降雨量不足による打撃を受けている。気象データによれば、降雨量は北部にある複数の地域で昨年の5分の1ほどだ。

商工省は、北部にある水力発電所のほとんど全てで水位が低下し、容量の4分の1でしか稼働できていないとしている。

<再生可能エネルギーは視界不良>

ベトナムではこの10年で再生可能エネルギーへの投資が急増し、太陽光発電がベトナムの発電設備容量の4分の1を占めている。一方で、事業の承認が遅れ、料金設定を巡る協議の長期化やあいまいな規制により、その多くが稼働できていない。

ソーラー発電所や屋上に設置されているパネルによる太陽光発電の容量は、2020年末までで19.4GW。ただ、EVNによれば熱波に見舞われるピーク時の平均使用量はたった10.5GWだったという。

また、送電網に繋がっている太陽光発電所は少数で、多くは数年以上、料金設定で合意を待ち続けている状態だ。

こうした状況もあり、6月に承認された今後10年間の発電計画によると、ベトナムの総発電量うち屋上のパネルを除く太陽光発電が占める割合は、2030年までに設備容量の8.5%に減少し、他の方法による発電が増加すると見込まれている。

主要7カ国首脳会議(G7)加盟国の内部資料をロイターが確認したところによると、風力発電プロジェクトは行政のハードルや新型コロナウイルスのパンデミック(世界的流行)により減速。より有利な価格で電気を売却できるよう政府が設置した2021年の期限を過ぎ、2月までにおよそ12.5GWが未使用となっている。

料金設定を巡る交渉も続いている。

G7を始めとする支援国は、都市部近郊の風が強い地域に長い海岸線と浅瀬があることから洋上風力発電に期待し、昨年12月、ベトナムの石炭依存脱却に向けて155億ドルの支援を約束した。

だが、ベトナム政府は、洋上の風力発電所を巡る規制を承認しておらず、10年間の設備容量をたった6GWと見積もっている。

ベトナム政府との協議に参加した外交官や当局者らによると、ベトナム政府は同事業の担当部署を決めかねており、資金援助の実現に向けた進展はほとんどみられていないという。

構想では4月までに意思決定機関の設立を予定していたが、実現していない。諸外国の当局は、支援金の運用計画の草案が当初予定されていた11月までに間に合わない可能性を懸念している。

ロイターはベトナム商工省と環境省にコメントを求めたが、返答は得られなかった。

G7が供出を表明した資金の大部分を占める海外融資の受け入れを巡っては、事務的なハードルや、長期的な政府の消極的姿勢が気候変動対策のための国際資金の活用を遅らせる要因となっている。

あるG7加盟国の外交官は、洋上風力発電所設置の大幅な遅れを予想し、「これはマラソンだ。短距離走ではない」と述べた。

(Khanh Vu記者、Francesco Guarascio記者)

ロイター
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