ニュース速報

ワールド

アングル:中国の独立系製油所、安いロシア産原油購入か 需要増で

2022年06月17日(金)07時25分

 中国の石油業界で「ティーポット」と呼ばれる、国営石油会社に属さない独立系製油所は一時稼働が落ち込んでいたが、息を吹き返しそうだ。写真は山東省の工場に設置された石油タンク。2018年7月撮影(2022年 ロイター/Jason Lee)

[シンガポール 14日 ロイター] - 中国の石油業界で「ティーポット」と呼ばれる、国営石油会社に属さない独立系製油所は一時稼働が落ち込んでいたが、息を吹き返しそうだ。新型コロナウイルス対応の行動規制の緩和による国内の燃料需要回復や、価格の安いロシア産原油の供給増による精製事業の利幅改善が追い風になるというのが、トレーダーやアナリストの見立てだ。

石油供給がひっ迫するタイミングで世界最大の原油輸入国である中国の需要が増加することは、西アフリカやブラジルからの輸送先が変更になったり、欧米の制裁にもかかわらずロシアの利益が増えるなど、広範囲に影響を広げそうだ。

ティーポット製油所は供給業者との長期契約に必要な信用度が低いいため、原油の調達をスポット市場に頼っており、目先の精製マージンの動きに敏感だ。

こうした事情からティーポット製油所は中国の精製部門の中でも不安定な動きをしつつ、原油輸入に占める比率が20%以上もあるため、国内市場の変動に拍車を掛ける可能性がある。

調査会社・クプラーのデータによると、1─5月のティーポット製油所の原油購入量は前年同期比で31%余り減った。新型コロナ対応の行動制限で、国内の燃料使用が抑えられたためだ。

アナリストによると、景気刺激策や旅行制限の緩和を受けてティーポット製油所は生産体制の転換を計画。制裁で需要が落ち込み、指標原油に比べて大幅に割安となっているロシア産原油に飛び付いているという。

シンガポールの石油トレーダーは「ティーポット製油所は利益だけを考えるので、安いロシア産原油を最大限買い入れるのは間違いない」と話した。

別のトレーダーによると、ロシア産のESPO原油やウラル原油は中東産のオマーン原油に比べて1バレル当たり10ドルほども安く、ティーポット製油所はコストが下がり、利益率が上がっている。

<山東省に拠点置くティーポット>

個々の製油所に関するデータはほとんど公開されていないが、ティーポット製油所の多くは山東省に拠点を置いており、同省の輸入がティーポット製油所全体の需要を把握するのに使われることが多い。

クプラーのデータによると、政府がティーポット製油所による原油の直接輸入を認めた2015年、山東省が中国の原油輸入全体に占める割合は11.6%だった。2016年以降の平均は27%だ。

中国全体の原油輸入が1─5月に9.3%減少したのに対して、山東省は31%減と落ち込みが大きかった。このことは新型コロナ対応の制限が導入された時にティーポット製油所が大規模な国営精製業者と比べ、輸入を減らすスピードが速かったことを示しており、その分だけ輸入が回復する余地も大きいことになる。

クプラーのデータによると、山東省の1―5月の原油輸入は日量168万バレル、中国全体の19.8%相当。前年同期は日量256万バレル、26.3%相当だった。

2017―21年のデータを見ると、山東省は例年6月に平均日量222万バレルを輸入している。従って、輸入量が平均に戻るなら今月の輸入量は日量50万バレル以上増えることになる。

<高まる稼働率>

ロシアによるウクライナ侵攻を受け、欧米がロシア産エネルギーに制裁を科す中、中国は今年に入ってロシア産原油を最も多く購入している国の1つだ。

JPモルガンのアナリストは、1日付の顧客向けメモで「推定によると中国は、日量100万バレルのロシア原油を容易に追加購入できる」と分析した。

また、ウッド・マッケンジーのアナリスト、ダフネ・ホー氏は、ロシアは2022年末までに日量250万バレル前後の原油の輸出先を欧州から変える必要があり、有力な変更先は中国だとしている。

中国によるロシア産原油の追加購入余力を予想するのは難しい。だが、トレーダーは中国が新型コロナ関連の制限を完全に緩和し、石油需要がコロナ禍前の水準に回復すれば、製油所の生産能力が日量140万─200万バレル増えると見込んでいる。

別のシンガポールのトレーダーは、ティーポット製油所は稼働率を5月下旬の約60%から6月末までに約70%に引き上げる可能性があると予想した。国営企業はティーポット製油所からの石油製品の購入を徐々に再開しているという。

稼働率が10%ポイント上がると、原油輸入は日量30万バレルほど増える。

山東省のコンサルタント会社Longzhongのデータによると、ティーポット製油所の平均稼働率は4月に50%を割り込み、2020年3月以降で最低となったが、先週は64%に回復した。

ただ、原油と精製品の在庫は高水準にあるため、短期的には輸入が限られるかもしれない。調査会社・ボルテクサのデータによると、陸上の商業原油在庫は5月下旬時点で9億バレル超と9カ月ぶりの高水準で、2020年8月に記録した過去最高の10億バレルに近づいた。

トレーダーによると、余剰分を解消するため政府は先週450万トンの燃料輸出枠を追加で発行したが、余剰在庫を解消し、輸入増を正当化するには、国内の燃料需要の増加が不可欠だという。

(Muyu Xu記者)

ロイター
Copyright (C) 2022 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

中国経済8月は減速、生産・消費が予想下回る 成長目

ワールド

中国は戦時文書を「歪曲」、台湾に圧力と米国在台湾協

ワールド

米中マドリード協議、2日目へ 貿易・TikTok議

ビジネス

米FTCがグーグルとアマゾン調査、検索広告慣行巡り
MAGAZINE
特集:世界が尊敬する日本の小説36
特集:世界が尊敬する日本の小説36
2025年9月16日/2025年9月23日号(9/ 9発売)

優れた翻訳を味方に人気と評価が急上昇中。21世紀に起きた世界文学の大変化とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 2
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる」飲み物はどれ?
  • 3
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人に共通する特徴とは?
  • 4
    腹斜筋が「発火する」自重トレーニングとは?...硬く…
  • 5
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 6
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 7
    電車内で「ウクライナ難民の女性」が襲われた驚愕シ…
  • 8
    【動画あり】火星に古代生命が存在していた!? NAS…
  • 9
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 10
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 1
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 2
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影...目覚めた時の「信じがたい光景」に驚きの声
  • 3
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれば当然」の理由...再開発ブーム終焉で起きること
  • 4
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
  • 5
    【クイズ】次のうち、飲むと「蚊に刺されやすくなる…
  • 6
    科学が解き明かす「長寿の謎」...100歳まで生きる人…
  • 7
    「二度見した」「小石のよう...」マッチョ俳優ドウェ…
  • 8
    【クイズ】世界で1番「島の数」が多い国はどこ?
  • 9
    埼玉県川口市で取材した『おどろきの「クルド人問題…
  • 10
    観光客によるヒグマへの餌付けで凶暴化...74歳女性が…
  • 1
    「4針ですかね、縫いました」日本の若者を食い物にする「豪ワーホリのリアル」...アジア出身者を意図的にターゲットに
  • 2
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 3
    「まさかの真犯人」にネット爆笑...大家から再三「果物泥棒」と疑われた女性が無実を証明した「証拠映像」が話題に
  • 4
    信じられない...「洗濯物を干しておいて」夫に頼んだ…
  • 5
    「最悪」「悪夢だ」 飛行機内で眠っていた女性が撮影…
  • 6
    「レプトスピラ症」が大規模流行中...ヒトやペットに…
  • 7
    「あなた誰?」保育園から帰ってきた3歳の娘が「別人…
  • 8
    「中野サンプラザ再開発」の計画断念、「考えてみれ…
  • 9
    プール後の20代女性の素肌に「無数の発疹」...ネット…
  • 10
    「我々は嘘をつかれている...」UFOらしき物体にミサ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中