ニュース速報

ワールド

アングル:国内設備投資、コロナ長期化で低迷か 日中関係悪化への懸念も

2021年04月16日(金)19時47分

 4月16日、ワクチン接種の遅れなどで新型コロナウイルスの影響が長引き、国内の設備投資が低迷する兆候が出てきた。写真は2019年1月、東京都で撮影(2021年 ロイター/Issei Kato)

[東京 16日 ロイター] - ワクチン接種の遅れなどで新型コロナウイルスの影響が長引き、国内の設備投資が低迷する兆候が出てきた。これまで海外経済の回復にけん引される形で輸出や生産は持ち直しの動きを示してきたが、設備投資の低迷が続けば、日本の成長力も圧迫される。こうした中、日米首脳会談が日中関係に影を落とすリスクも一部では懸念され始めている。

内閣府の機械受注統計によると、船舶・電力を除いた民需の受注額(季節調整値)は1月が8417億円(前月比4.5%減)、2月が7698億円(同8.5%減)と2カ月連続で減少。基調判断は「持ち直している」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に下方修正された。

2月の内需は、非製造業(除く船舶・電力)が前月比10.9%減と、コロナ感染が拡大して緊急事態宣言が出された昨年4月以来の大幅な落ち込みとなった。12業種中10業種が減少。鉄道車両などが含まれる「運輸業・郵便業」は、コロナ禍でのテレワーク推進や外出自粛で鉄道利用が落ち込み、収入が減少したことなどが背景にあるとみられている。

ワクチン接種が遅れをとる中、目先、宿泊・飲食、運輸といったサービス業からの受注増は期待しづらい。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは16日のリポートで「設備投資に関するデータは持ち直し方向というよりも、低位継続の方向に収れんしたようにも判断できる」と指摘。サービスセクターを中心にコロナ禍の下押しが継続しており、「国内設備投資の低迷がしばらく継続する可能性は高まっている」とした。

日銀が15日発表した地域経済報告(さくらレポート)では、製造業からソフトウェア投資や次世代技術の研究開発投資など、将来の競争力維持に向けた投資に前向きな声があった一方、非製造業からは「先行きの宿泊需要の見通しが立たないため、ホテルの新規建設計画は全て凍結した」(宿泊)、「コロナ禍以降の収益悪化により、キャッシュアウトを抑制すべく、必要最低限の設備投資案件以外は凍結している」(宿泊・飲食)といった声も出ていた。

SMBC日興の丸山氏は「設備投資の抑制が長期化すれば、生産性上昇率の低迷などを通じて、供給能力の拡大抑制から日本の潜在成長率を圧迫する可能性が高まる」と注意を促す。

<国際政治でも懸念材料が浮上>

2月の機械受注では、外需の受注額が1兆8000億円を超え、比較可能な2005年4月以降、過去最高の水準となった。数千億円単位の大型案件が1件あったことが大幅な押し上げ要因になったとはいえ、海外で設備投資の活発化が継続していることがうかがえた。

ただ、目先、国際政治関連で懸念材料も浮上している。日米首脳会談でバイデン政権の対中強硬姿勢に日本が同調し、日中関係に影を落とすというリスクだ。日米両国が3月に東京で開催した日米2プラス2では香港や新疆ウイグルでの人権状況に対する懸念を文書で表明。直後に中国外務省は日本を「戦略的属国」と激しく非難した経緯がある。

財務省の貿易統計によると、2020年の日本の対中輸出額は15兆0819億円(前年比2.7%増)、対米輸出額は12兆6122億円(同17.3%減)と、直近の輸出額は中国向けの方が大きくなっている。ただ、二者択一を迫られた場合、「日中貿易と日米貿易では、日米が止まる方が怖い」(政府関係者)との声も聞かれる。

株式市場では、このところ海運業や機械株の一部が軟調で、広く中国関連株が伸び悩んでいる。9日に好決算を発表した安川電機もさえない。大和証券の木野内英治チーフ・テクニカルアナリストは「日米首脳会談で菅義偉総理が対中強硬姿勢への同調を求められ、日中関係の悪化が懸念されている」と指摘する。

最悪の場合、「中国政府による日系企業の中国合弁の差し押さえや、日本から中国への輸出制限なども覚悟が必要」(別の政府関係者)との声もある。景気回復のけん引役となってきた外需が落ち込めば、設備投資に慎重な姿勢が強まる可能性がある。

(杉山健太郎、取材協力:竹本能文 編集:石田仁志)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アシックス、プーマ買収に関心との報道に「そのような

ビジネス

鉱工業生産10月は自動車増産で前月比1.4%上昇、

ビジネス

完全失業率10月は2.6%で横ばい、有効求人倍率は

ビジネス

小売販売額10月は前年比1.7%増、家電増・食品マ
MAGAZINE
特集:ガザの叫びを聞け
特集:ガザの叫びを聞け
2025年12月 2日号(11/26発売)

「天井なき監獄」を生きるパレスチナ自治区ガザの若者たちが世界に向けて発信した10年の記録

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果のある「食べ物」はどれ?
  • 4
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 5
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 6
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 7
    がん患者の歯のX線画像に映った「真っ黒な空洞」...…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    「攻めの一着すぎ?」 国歌パフォーマンスの「強めコ…
  • 10
    7歳の娘の「スマホの検索履歴」で見つかった「衝撃の…
  • 1
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるようになる!筋トレよりもずっと効果的な「たった30秒の体操」〈注目記事〉
  • 2
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 3
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やってはいけない「3つの行動」とは?【国際研究チーム】
  • 4
    マムダニの次は「この男」?...イケメンすぎる「ケネ…
  • 5
    AIの浸透で「ブルーカラー」の賃金が上がり、「ホワ…
  • 6
    海外の空港でトイレに入った女性が見た、驚きの「ナ…
  • 7
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファ…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベー…
  • 10
    老後資金は「ためる」より「使う」へ──50代からの後…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 4
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中