ニュース速報

ワールド

情報BOX:香港の「国歌条例案」、争点と今後の見通し

2020年05月28日(木)16時01分

5月27日、香港立法会(議会)が中国国歌の侮辱を禁じる国歌条例案の審議を進めようとしている。写真は香港で、国歌条例案に反対するデモに参加する市民(2020年 ロイター/Tyrone Siu)

[香港 27日 ロイター] - 香港立法会(議会)が中国国歌の侮辱を禁じる国歌条例案の審議を進めようとしている。市民らの抗議デモも活発化している。

国歌条例案の争点と今後に予想される展開を整理した。

<国歌条例案とは何か>

条例案は立法会で成立すれば、中国国歌の香港での扱いや歌い方、演奏の仕方を司ることになる。「侮辱」する者は最大禁錮3年か、最大5万香港ドル(約70万円)の罰金、もしくはその両方が科される恐れがある。

条例案は「すべての個人と組織」が中国国歌を尊重し、その威厳を保つべきで、演奏したり歌ったりするのは「適切な時に」行われるべきだと規定する。小中学生が中国国歌を歌うのを教わるように命じてもいる。その際には中国国歌の歴史や歌う際の礼儀作法も学ぶとされている。

<なぜ物議を醸すのか>

香港で昨年繰り広げられた反政府抗議活動は、香港が中国本土にさらに一体化されていくことに抵抗するのを第一の狙いとしていた。中国国歌は、サッカーの試合といった幾つかのイベントの場でブーイングを受けていた。

抗議活動参加者や民主派政治家は国歌条例案を、香港に保障されている自治に中国政府が介入を強めようとしている最新の動きと見なしている。

1997年に英国から中国に主権が返還された「香港返還」の際、当時の中国国家主席は「一国二制度と高度の自治」を確約した。これが香港の中核的な自由と市民の生活を守ることになっている。中国政府は一国二制度を尊重していると主張する。

言論と報道、団体活動、示威行動の自由は、憲法に当たる基本法に明文化されている。条例反対派によれば、こうした自由が今、脅かされている。

もっとテクニカルな観点では、香港の一部の弁護士らは、条例案の中に中国共産党のイデオロギー的な強い願望が反映されているという点で、極めて異例だと懸念する。香港でそうした党のイデオロギーを実現させるのは困難であるにもかかわらずだ。

ある上級判事は最近ロイターに対し、個人的な意見として、「まるで北京で書かれたかのように見える初めての香港の条例だ。これをもとに判決を下すのは悪夢だろう」と話した。

香港の弁護士団体は、こうした法令の必要は認めるとしたが、国歌条例案の一部は香港の慣習法体系の「良き伝統」から逸脱していると指摘。香港の法体系と、政治的イデオロギーと指導的概念を含む中国本土の社会主義的法体系とは、根源的な違いがあるとした。

<これまでの経緯は>

中国当局と香港の親中派は何年も、極めて自由闊達(かったつ)で騒乱も多い香港社会に中国の愛国的プライドの感覚を植え付けたいと願ってきた。

香港政府は、国歌条例案には香港自身の法体系や、置かれた状況が反映されていると主張する。香港政府の報道担当者は今年、条例案の主要な精神は「尊重」であって、香港社会の一部メンバーが訴えるような「言論の自由の規制」とは絶対に無関係であり、「悪法」では断じてないと述べている。

<今後はどうなるか>

さらなる抗議活動と立法会審議の混乱が広く予想されている。

香港政府は中国政府から圧力をかけられており、7月に立法会の4年間の現任期が切れる前に最優先で成立させるとしている。審議は長く混迷し泥沼状態になっていたが、ついに6月初めにも採決にかけられる可能性がある。

現任期中に採決できなければ、香港政府は今後、条例案を次の任期で再提出するか、あるいは発布措置に切り替えて強制的に施行するかを決断しなければならないだろう。条例の発布は極めて異例で、さらなる抗議活動が噴出しかねない。

市民と協議し直し、代案を作る道もある。

長期的には、条例案が成立して施行された場合は、内容や成立手続きが法廷闘争に持ち込まれ、違憲かどうかが争われる可能性もある。

*1段落目の誤字を修正し、再送します。

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

中印ブラジル「ロシアと取引継続なら大打撃」、NAT

ビジネス

NY外為市場=ドル急伸し148円台後半、4月以来の

ビジネス

米金利変更急がず、関税の影響は限定的な可能性=ボス

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中