ニュース速報

ビジネス

アングル:インド都市部で若者の失業増、労働者流入が再加速

2023年01月25日(水)16時22分

 インドの都市部では若者の失業者が大量に発生している。写真は13日、ファリダバードの製造拠点で働く人(2023年 ロイター/Manoj Kumar)

[ファリダバード(インド) 20日 ロイター] - インド北部ファリダバードで暮らすラビ・ベルマさんは昨年初めに電子部品製造会社で職を得た。国内の景気が上向いたためだ。しかしこの企業が輸出受注を幾つか失うと11月に失職。その後は再就職がかなわず、スクーター購入のために借りた10万ルピー(約16万円)の返済ができなくなっている。2カ月にわたり職を探しているが見つからず、「すぐに就職しなければ債務不履行の恐れがある」という危機的な状況だ。

インドの都市部ではベルマさんのような若者の失業者が大量に発生している。調査会社CMIEのデータによると、インド全体の雇用者総数は4億1000万人と新型コロナウイルスのパンデミック前の水準に戻ったが、都市部は昨年12月の失業率が10.1%に上昇した。

失業者の増加は経済がパンデミックから順調に回復していることを示す他の経済指標と矛盾する。しかしインドは世界的な景気減速で輸出が落ち込んでいるほか、都市部にはパンデミック後に地方から2000万人近い労働者が再流入し、失業問題が悪化している。都市部の失業率はパンデミック期間に急上昇する以前には6─7%で推移していた。

CMIEのマネジングディレクターのマヘシュ・ビアス氏の話では、12月の求職者数は3700万人近くと、パンデミックが最も激しかった2021年6月以降で最高を記録。パンデミックの不安が薄れ、女性や地方の働き手が労働市場に戻り、労働参加率が上がったという。

一方、海外との比較ではインド経済はなお良好だ。米国と欧州で景気後退入りの懸念が高まっているのに対して、インドは今会計年度の成長率予想が7%で、来年度も6%弱が見込まれている。

しかし国内企業は海外需要の減少に直面。エンジニアリング、繊維、ソフトウエアなどの輸出依存型製造業で雇用が鈍り、製造業製品輸出は12月に前年同月比で12.2%減った。

失業はモディ首相にとって高ンフレ率と肩を並べる課題に浮上しており、年内の州議会選や来年半ばの総選挙で重荷になりそうだとアナリストは見ている。最大野党、国民会議派は物価高と失業を重要な争点とみて、政権批判を続けているからだ。

ジャワハルラール・ネルー大学の元教授で経済学者のアルン・クマール氏は「失業問題は深刻化している」と指摘。労働者の9割近くを雇用する中小企業が廃業し、成長を主導しているのは大企業やサービス業だという。

インドの人材コンサルタント会社Naukri.comのデータを見ると、12月のIT、ソフトウエア、教育、小売りの雇用は前年比で最大28%減ったが、保険、銀行、自動車などのセクターは底堅さを保っている。

<高収入の職なく>

若い労働者の多くはこれまでに受けた教育に見合った、スキルが必要な職に就きたいと語り、賃金の低い単純労働には見向きもしない。そのためハリヤナ、ラジャスタン、ビハールなど一部の州では失業率が記録的な水準に跳ね上がっている。

北部ハリヤナ州はマルチ・スズキなど海外企業を擁する製造業の中心地だが、パンデミック前に約20%だった失業率が12月に37.4%と歴史的な水準に急騰した。

ハリヤナ州ファリダバードの技術系大学で学ぶ女子学生のアンジャリ・ヤダフさんは「電子工学のコースを3年学んだら少なくとも2万ルピーの給料が必要だ」と話す。

しかし労組のリーダーのミトレス・クマールさんによると、当地の工場や企業には月に1万ないし1万2000ルピー以上の給与を支払う用意はない。

やはり職を探しているウタム・シャイリさん(22)は、電子機械工になるために2年間勉強した。低賃金の仕事を受け入れるくらいなら「家にいるほうがいい」という。

<成長リスクも>

エコノミストは、雇用情勢の悪化が消費者需要に影響を与え、民間投資を抑制し、成長の見通しを悪化させる恐れがあると指摘する。

フィッチ・レーティングスのインド部門、インディア・レーティングスのエコノミストのスニル・シンハ氏は「ITや一部の製造業における雇用喪失が消費者心理を直撃し、家計消費と企業投資に打撃を与えかねない」と危惧を示した。

シンハ氏によると、インド企業は国内外の市場で需要低迷に直面しており、雇用がさらに失われる恐れが高まっているという。

(Manoj Kumar記者)

ロイター
Copyright (C) 2023 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

FRB議長候補ウォーシュ氏、上院承認手続きへ財務書

ビジネス

原油は年末までに90ドル下回る、BofAの投資家調

ビジネス

世界の石油需給、イラン戦争受け昨年比で減少見通し=

ビジネス

中国財政省、国債引受業者と16日会合 超長期特別債
MAGAZINE
特集:台湾有事の新シナリオ
特集:台湾有事の新シナリオ
2026年4月21日号(4/14発売)

地域紛争の「大前提」を変えた米・イラン戦争が台湾侵攻の展開に及ぼす影響をシミュレーション

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本は「イノベーションのやり方」を忘れた...ホンダ「EV撤退」が示す、日本が失った力の正体
  • 2
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国防軍は崩壊寸前」
  • 3
    【銘柄】イラン情勢で「任天堂」が急落 不確実な相場で人気の優良株から売られる落とし穴
  • 4
    「いい加減にして...」ケンダル・ジェンナーの「目の…
  • 5
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 6
    トランプがまた暴走?「イラン海上封鎖」の勝算
  • 7
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 8
    高さ330メートルの絶景と恐怖 「世界一高い屋外エレ…
  • 9
    「仕事ができる人」になる、ただ1つの条件...「頑張…
  • 10
    目のやり場に困る...元アイスホッケー女性選手の「密…
  • 1
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文章」...歴史を塗り替えかねない、その内容とは?
  • 2
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収される...潜水艦の重要ルートで一体何をしていた?
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    韓国、生理用品無償支給を7月から開始 靴の中敷きで…
  • 5
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 6
    停戦合意後もレバノン猛攻を続けるイスラエル、「国…
  • 7
    「地獄を見る」のは米国か──イラン地上侵攻なら革命…
  • 8
    撃墜された米国機から財布やID回収か、イラン側が拡…
  • 9
    ポケモンで遊ぶと脳に「専用の領域」ができる? ポ…
  • 10
    中国がイラン戦争一時停戦の裏で大笑い...一時停戦に…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 3
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 4
    古代のパピルスから新たに見つかった「2500年前の文…
  • 5
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 6
    バリ島沖の要衝で「中国製水中ドローン」が回収され…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    メーガン妃、娘リリベット王女との「お手伝い姿」公…
  • 10
    第6回大会を終えて曲がり角に来たWBC
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中