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アングル:航空旅行の復活、各社を悩ませるパイロット再訓練

2021年06月05日(土)08時48分

 新型コロナウイルスのワクチン接種が進み、旅行の予約が急増する中、デルタ航空とアメリカン航空では、何百人もの所属パイロットが再訓練を急いでいる。写真は昨年3月、アラバマ州バーミングハムの空港に駐機しているデルタ航空機(2021年 ロイター/Elijah Nouvelage)

[シカゴ 28日 ロイター] - 何百万人という米国人が夏休みの旅行で航空機を利用しようと待ち構えるなかで、ベン・ワランダーさんは参考書やシミュレーターを使って猛特訓を続けている。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種が進み、旅行の予約が急増する中、デルタ航空とアメリカン航空では、何百人もの所属パイロットが再訓練を急いでいる。27歳のワランダーさんも、その1人だ。

デルタ、アメリカン両社のパイロット数千人は、90日以上コクピットから離れていたせいで「現役」の資格が失効してしまった。パンデミック(世界的大流行)によって航空旅客が急減し、航空業界に大打撃を与えたからだ。

しかし5月28日から始まった米戦没将兵追悼記念日(メモリアルデー)の連休を皮切りに、この夏はレジャーとしての旅行の急増が予想される。航空会社にとっては、待ちに待った需要回復に対応できるかどうかが試されることになる。

航空各社はすでに所属パイロットの多くの再訓練を済ませている。だが、事情に詳しい関係者によれば、デルタ、アメリカン両社では、航空機による旅行の復活に合わせて、訓練を促進し停滞を防止するため、シミュレーターや指導教官を増加させる必要に迫られているという。

両社は、総額約540億ドル(約5兆9000億円)の新型コロナ関連の支援金を合計3回にわたって受け取っている。ほとんどは使途を限定しないものだ。「パイロットなど、高コストの訓練が義務付けられる要員を待機させるために必要」という航空産業の主張によるものである。

航空旅客の回復にスムーズに対応できなければ、フライトのキャンセルなどが相次ぎ、パンデミックによって生じた債務の返済に必要な現金収入が確保できなくなる可能性もある、とアナリストは警鐘を鳴らす。

マッキンゼーで航空産業担当のコンサルタントを務めるビク・クリシュナン氏は、「かなり手ごわいパズルだ」として、パイロットの訓練を巡るロジスティクスをゲームの「テトリス」になぞらえる。

デルタ、アメリカン両社では、例年通り繰り返される訓練に加えて、パンデミックにより退役した機種を操縦していたパイロットだけでなく、早期退職を選んだパイロットに代わり以前とは異なる機種を担当するパイロットのための訓練も行わなくてはならない。

「パイロットの訓練は業務計画に沿って順調に進んでおり、今後も予定どおりだ」とデルタの広報担当者アンソニー・ブラック氏は述べた。

アメリカンの広報担当者サラ・ジャンツ氏は、「訓練体制は整っている。今後予想されるフライトの増加にも対応できる」と説明した。

<パイロット需要は乱高下>

コロナ禍の前、世界の航空産業は年間5%という記録的な成長を遂げていた。ボーイングの試算によれば、今後20年間でパイロット80万4000人が必要になるはずだった。

しかし、パイロットの雇用状況の不安定さは航空産業の以前からの宿命だ。コロナ禍前の世界的なパイロット不足は一変し、パンデミック中は失業や自宅待機に至った。そして今、鍵となる米国内市場で、パイロット不足がボトルネックになる懸念が再び浮上している。

この問題は、航空産業が直面した史上最悪の危機の間に雪だるま式に膨れ上がり、改めて難題を突きつけている。

社内文書によれば、デルタには現在約1万2600人のパイロットが所属し、機長・副操縦士のポストは社内で1600人を確保しているという。

エアバスA220のパイロットであるワランダーさんは、3月にデルタに呼び戻されたが、6月まで訓練のスケジュールが入っていない。

彼は、以前と同じA220のパイロットとして復帰することに決めた、とロイターの取材に答えた。それなら「長期の訓練を受ける必要がない」というのが理由だ。

訓練課程は、数日間から数週間まで多岐にわたる。パイロットがどれだけ長く現場から離れていたか、また昇進や担当機種変更の有無によって変わってくる。

パイロットは全員、各社とも限られた台数しか所有していないシミュレーターでの訓練を受け、実機フライトに帯同した機長クラスの指導教官の承認を得て、ようやく現場への復帰が認められる。

だが、こうした教官役のパイロットの側でも、保有機の入れ替えや退役などに伴って以前とは違う機種での訓練を必要としており、知識やリソースにギャップが生じている。

アメリカン航空のパイロット1万5000人が加入する労働組合アライド・パイロッツ・アソシエーションの広報担当者デニス・タジェール氏は、「こういったことがすべて、訓練に連鎖的な影響を及ぼす」と語った。

やはり米国の国際航空会社大手であるユナイテッド航空は、パイロット組合と合意を締結し、パンデミック下でも1万2000人近いパイロットの操縦資格が失効しないように努めてきた。

アメリカンは訓練促進策の一環として、本拠地テキサスでカナダのCAEが所有するシミュレーターを借りることにしている。一方、関係者によると、デルタはアトランタ本社以外でも訓練を行い、シミュレーター実習のブリーフィングの時間を調整するなどして、1日当たりの訓練回数を約25%増やしているという。

アメリカン航空ではこの夏、国内便のフライト数をパンデミック前の水準の90%にまで回復させる計画。デルタ航空でも増便を計画しており、この週末には平均で90%の搭乗率を予想しているという。

デルタ航空でパイロット組合エアライン・パイロット・アソシエーションの広報担当者を務めるクリス・リギンズ氏は、「極端な急ブレーキを踏んだ後、それよりもさらに急激な回復を迎えつつある」と述べた。

(Tracy Rucinski記者)

(翻訳:エァクレーレン)

*記事の内容は執筆時の情報に基づいています。

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