ニュース速報

ビジネス

焦点:予想以上に上昇した米CPI、FRBの方針転換を占えるか

2021年05月13日(木)15時41分

 12日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)が予想以上の上昇だったことで、インフレ圧力の兆候がこれから増えるとの投資家の警戒が高まった。写真はニューヨークのマンハッタンで、ショーウィンドーを見る人々。3月30日撮影(2021年 ロイター/Caitlin Ochs)

[ニューヨーク 12日 ロイター] - 12日に発表された4月の米消費者物価指数(CPI)が予想以上の上昇だったことで、インフレ圧力の兆候がこれから増えるとの投資家の警戒が高まった。そうなれば米連邦準備理事会(FRB)が利上げに傾く可能性があるとみられているためだ。

4月のCPIはFRBに方向転換させるほどのものではないとみる投資家も少なくない。しかしながら、発表は米経済が持続的なインフレ上昇に向かっているとの懸念をかき立て、市場を動揺させた。

チェース・インベストメント・カウンシルのピーター・タズ社長は「今回の統計が示した動きが一時的なのか、持続するのかが争点だ。時間がたてば分かることだが、私は労働コストとコモディティー価格の動きがある程度落ち着くまでは、物価の上昇は続くとみている」と語る。「想定されたよりも早くFRBが緩和政策を変更する必要があるかもしれない、との考え方につながるのは明らかだ」とも述べた。

CPIは総合指数が前月比0.8%上昇と、2009年6月以来の高い伸びになった。食品・エネルギーを除いたコア指数は0.9%の上昇だった。発表を受けて米主要株価指数は約2%下落した。

オックスフォード・エコノミクスの米首席エコノミスト、グレゴリー・ダコ氏によれば、米経済は「予想されたよりは好調だが、過熱ではない」。たった一つの統計でFRBが政策を変更するわけはなく、今回のCPIで流れが一気に変わることはないと話す。

投資家はインフレの状況についてもっと情報を得るため、近日中に発表される新たな経済統計に関心を向けている。とりわけ注目されているのは13日の4月の生産者物価指数(PPI)。エコノミストは前月並みの上昇を予想している。14日には4月の小売売上高と鉱工業生産のほか、企業在庫も発表される。

米国のインフレを警戒する向きは、コロナ禍からの経済回復が過熱し始めているのではと思案する。新型コロナウイルスワクチンの接種が進み、多くの州は経済活動の制限措置を解除しつつある。追加のコロナ経済対策に基づく給付金は3月に対象家計に送付され、需要を押し上げる一因になっている。

ただ、経済回復の証拠が明確にあるわけではない。7日に発表された4月の雇用統計では就業者数の伸びは予想外に鈍かった。

FRBのクラリダ副議長は12日、危機対応の支援を巻き戻すことをFRBが検討するほど米経済が回復するには「まだしばらくかかる」と述べた。物価上昇の動きは一時的との見方も示した。

<問題はインフレの持続性>

4月CPIに対する米国債市場の反応が、株式市場に比べればおとなしめだったことを指摘し、債券市場のFRBウォッチャーが引き締めを見込んでいない証左だとする市場関係者もいる。

インキャピタルの首席市場ストラテジスト、パトリック・リーリー氏は「今回のような物価上昇はなお一時的だと見なされている」と話す。そうでなければ債券市場はもっと懸念するはずだが、実際はそうなっていないという。

12日の10年物米国債利回りは一時1.697%と、4月13日以来の高水準に上昇したが、その後は1.695%になった。前日比では7.1ベーシスポイントの上昇。

株式市場では最近、インフレと金利が上昇する可能性への懸念から大型成長株の一部が売られていた。この流れは12日も続き、3つの株式指数ではナスダックの落ち込みが最も大きかった。

プルデンシャル・ファイナンシャルの首席市場ストラテジスト、クインシー・クロスビー氏によると、投資家の疑問は今、超低金利がどれだけ長く続くかに集まっている。同氏は1つの統計だけでFRBが姿勢を変えることはないと指摘。姿勢変更にはもっとデータが必要になるとし、特にインフレ上昇とコスト上昇が持続していることを示す統計が必要とみる。「われわれはまだその段階ではない。われわれはなお、景気回復の途上にある」と語った。

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

雇用統計やCPIに注目、年末控えボラティリティー上

ワールド

米ブラウン大学で銃撃、2人死亡・9人負傷 容疑者逃

ワールド

シリアで米兵ら3人死亡、ISの攻撃か トランプ氏が

ワールド

タイ首相、カンボジアとの戦闘継続を表明
MAGAZINE
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
特集:ジョン・レノン暗殺の真実
2025年12月16日号(12/ 9発売)

45年前、「20世紀のアイコン」に銃弾を浴びせた男が日本人ジャーナリストに刑務所で語った動機とは

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の展望。本当にトンネルは抜けたのか?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 4
    「前を閉めてくれ...」F1観戦モデルの「超密着コーデ…
  • 5
    現役・東大院生! 中国出身の芸人「いぜん」は、なぜ…
  • 6
    世界最大の都市ランキング...1位だった「東京」が3位…
  • 7
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 8
    首や手足、胴を切断...ツタンカーメンのミイラ調査開…
  • 9
    「体が資本」を企業文化に──100年企業・尾崎建設が挑…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だから日本では解決が遠い
  • 2
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価に与える影響と、サンリオ自社株買いの狙い
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    キャサリン妃を睨む「嫉妬の目」の主はメーガン妃...…
  • 8
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 9
    健康長寿の鍵は「慢性炎症」にある...「免疫の掃除」…
  • 10
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中