ニュース速報

ビジネス

焦点:G20声明でドル高容認論、米制裁なら後退も 近く為替報告

2021年04月14日(水)19時45分

 4月14日 20カ国・地域(G20)が7日採択した財務相・中央銀行総裁声明を受け、市場でドル高容認論が浮上している。写真は2018年8月、ロシアのモスクワで撮影(2021年 ロイター/Maxim Shemetov)

山口貴也

[東京 14日 ロイター] - 20カ国・地域(G20)が7日採択した財務相・中央銀行総裁声明を受け、市場でドル高容認論が浮上している。約3年ぶりに見直された為替の文言が、経済回復で先行する米国の長期金利上昇を反映したドル高の流れを追認したとの見方だ。ただ、バイデン米政権が近く公表するとみられる為替報告書を踏まえどう動くかは見通せず、ベトナムやスイスへの為替操作国認定を覆さず制裁を発動すれば、ドル高観測が後退する可能性もある。

<協調路線に復帰>

G20財務相・中銀総裁は7日の声明で、為替について「根底にある経済のファンダメンタルズを反映することに引き続きコミットし、為替レートの柔軟性は経済の調整を円滑化しうることに留意する」と新たな表現に見直した。柔軟な為替レートが世界経済の変動に対処する支えになる、との考えを明確にした形だ。

複数のG20関係者によると、声明の調整手続きは今月1日から1週間程度で終えた。声明に盛り込む為替の表現は「平時でなければ原理原則を確認することすら難しい」(日本政府関係者)とされ、2018年3月のアルゼンチン・ブエノスアイレス会議以降は見直されてこなかった。

国際金融が専門の小川英治・東京経済大教授は、このタイミングでの表現変更について「バイデン新政権が協調路線に戻ったことに加え、米金利上昇の影響を受けて為替レートの変動が予想されるからではないか」とみる。

米国では、昨年11月の大統領選や議会選で当時野党だった民主党の勝利が確実になると、財政支出が拡大して金利が上昇すると予想する向きが広がった。経済の先行回復期待にも支えられ、米10年債利回りはバイデン政権が発足して以降、今年1月に付けた1%程度を底に、直近では1.7%前後で推移している。

欧州で新型コロナウイルスの変異種が拡大し、日本ではワクチン接種の遅れも指摘される中で「金利差が米国に有利に働き、ドル高傾向が続くことも想定され、(今回の合意が)ドル高容認とみることができる」と、先の小川教授は指摘する。

「米国が各国と協調して健全な通貨政策に戻ることを改めて宣言する意図があったのではないか。米国経済の強さを反映したドル高であれば容認する姿勢も読み取れる」と、国際通貨研究所の橋本将司上席研究員は言う。

<為替報告書を注視>

こうした見方が持続するかは、近く公表されるとみられる米為替報告書後のバイデン政権の対応次第との声も出ている。共同声明には色を付けない慣例に沿って、各国はドル高容認を「意図したものではない」(G20関係者)との立場を崩していない。

とりわけ注目されるのが20年12月に為替操作国に認定されたベトナム、スイス両国への対応だと、野村証券の吉本元シニアエコノミストは言う。

ベトナム、スイスが引き続き為替操作国に認定された場合でも、「バイデン政権が経済制裁の発動を見送れば市場はドル高容認の見方を固めそうだ」とする一方、「制裁発動を検討する判断に傾けば野放図に通貨安を認めるわけではないと受け止められ、ドル高容認の見方を修正せざるを得ない」と同氏はいう。

為替報告書は米財務省が貿易相手国の為替政策を分析、評価したうえで4月と10月の年2回、米議会に提出する。対米貿易黒字や経常黒字、為替介入による外貨購入の3基準で為替操作国に指定され、是正措置を取らなければ相殺関税などの制裁が課される。為替操作国に認定されても直ちに制裁が課されるわけではない。

トランプ前政権は、新型コロナ対応などを理由に昨年1月と12月にそれぞれ公表を遅らせた。新政権が報告書をいつ公表するかも焦点となる。

日本を含め、中国、韓国、ドイツ、イタリア、シンガポール、マレーシア、タイ、台湾、インドは米財務省が指定する監視対象国・地域となっている。

(山口貴也 編集:久保信博)

ロイター
Copyright (C) 2021 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

12月FOMCで利下げ見送りとの観測高まる、9月雇

ビジネス

米国株式市場・序盤=ダウ600ドル高・ナスダック2

ビジネス

さらなる利下げは金融安定リスクを招く=米クリーブラ

ビジネス

米新規失業保険申請、8000件減の22万件 継続受
MAGAZINE
特集:世界も「老害」戦争
特集:世界も「老害」戦争
2025年11月25日号(11/18発売)

アメリカもヨーロッパも高齢化が進み、未来を担う若者が「犠牲」に

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判殺到、そもそも「実写化が早すぎる」との声も
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    【銘柄】イオンの株価が2倍に。かつての優待株はなぜ成長株へ転生できたのか
  • 4
    ロシアはすでに戦争準備段階――ポーランド軍トップが…
  • 5
    アメリカの雇用低迷と景気の関係が変化した可能性
  • 6
    幻の古代都市「7つの峡谷の町」...草原の遺跡から見…
  • 7
    「まじかよ...」母親にヘアカットを頼んだ25歳女性、…
  • 8
    【クイズ】中国からの融資を「最も多く」受けている…
  • 9
    EUがロシアの凍結資産を使わない理由――ウクライナ勝…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR動画撮影で「大失態」、遺跡を破壊する「衝撃映像」にSNS震撼
  • 4
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 5
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 6
    【銘柄】ソニーグループとソニーFG...分離上場で生ま…
  • 7
    【写真・動画】「全身が脳」の生物の神経系とその生態
  • 8
    筋肉の正体は「ホルモン」だった...テストステロン濃…
  • 9
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 10
    「ゲームそのまま...」実写版『ゼルダの伝説』の撮影…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 3
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 4
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 5
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎…
  • 6
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 7
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 10
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中