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アングル:日米国債の総利回りが逆転、国内勢はシフトに依然慎重

2021年01月25日(月)13時23分

 1月25日、為替ヘッジを付けた米国債の利回りが日本国債を上回ってきたが、国債投資家は米債シフトに依然慎重な姿勢を崩していない。写真は米ドル紙幣。2018年2月撮影(2021年 ロイター/Jose Luis Gonzalez)

伊賀大記

[東京 25日 ロイター] - 為替ヘッジを付けた米国債の利回りが日本国債を上回ってきたが、国債投資家は米債シフトに依然慎重な姿勢を崩していない。利回り差はまだわずかで、金利上昇リスクを抱えてまで投資に動く水準ではないためだ。ただ日米の景況感の違いから今後、金利差が一段と拡大するとの見方も多く、ヘッジを付けないオープン投資を含めた米債シフトが進む可能性もある。

<約3年ぶりの逆転>

約3年ぶりに為替ヘッジコスト込みの米10年国債利回りが、日本の30年国債利回りを上回ってきた。円債利回りがほとんど変わらない一方、米債は為替ヘッジコストの低下と昨年秋からの金利上昇で総利回りが改善。0.6%台後半のリターンが得られるようになっている。

米金利上昇の要因は、民主党による財政拡張と景気回復期待、さらに期待インフレ率の上昇だ。FRB(米連邦準備理事会)のパウエル議長がいったん「封印」したが、テーパリング(資産縮小)観測も依然くすぶっている。一方、日本はワクチン普及が遅れ景気回復にも時間がかかるとみられているほか、期待インフレ率もまだ低い。

国内投資家にとって米債投資の魅力が増しているのは確かだが、依然として本格的な米債買いには動いていない。財務省が公表する国内勢の対外中長期債投資 (指定報告機関ベース)によると、1月3─9日は7362億円買い越したが、10─16日は2724億円の買い越しと、ペースダウンしている。

直近2週分を平均すると1週当たり5043億円。2020年の1週あたり平均約3970億円を上回っているが、その直前の12月20─1月2日の2週累計で8523億円売り越している反動が出た可能性もある。

<米債利回りは「まだ低い」>

国内投資家が米国債投資をためらう理由の1つは、金利が上昇したとはいえ、リスクに見合うだけの高い利回りとはいえないためだ。「金利の絶対水準からみると、それほど魅力があるわけではない。金利上昇リスクも残っている」と、富国生命保険の財務企画部長、小野寺勇介氏は指摘する。

現在の利回り差は米10年と日30年で0.05%程度。為替ヘッジ付き外債は、円金利資産の代替商品だが、金利上昇のリスクは残る。為替ヘッジを付けずに買えば、1%強の利回りが得られるが、今度は為替リスクが付く。現在のドル/円水準であれば、102円台に円高が進めば利益(利回り)が吹き飛ぶ計算だ。

国内生保にとっては、別の事情もある。2025年の国際資本基準適用による経済価値ベースへの移行だ。「規制対応で保有債券の年限長期化を迫られている国内の機関投資家にとっては、米国債の10年物では短く利回りが低い。一方、30年物ではボラティリティーが高すぎる」と、パインブリッジ・インベストメンツの債券運用部長、松川忠氏は指摘する。

市場では、米国債投資を足元で増やしているのは国内年金勢との見方が多い。「年金勢は株価上昇に伴うポートフォリオリバランスで債券を買っているとみている。決して積極的な買いではないだろう」と、アライアンス・バーンスタインの債券運用調査部長、駱正彦氏はみる。株価上昇で株式の比率が高まれば、他の資産も増やしてバランスをとるのがポートフォリオ運用での基本だ。

<日米金利差はさらに拡大か>

3年前の17年に同じく為替ヘッジコスト込みの米10年債利回りが、日本の30年債利回りを上回った際は、日本の投資家は少し遅れて米債投資を本格化させた。利回りが逆転したのは2月から3月にかけてだったが、5月から9月にかけて約5.7兆円買い越した。

「金利上昇が一服したのを見極めた後で動いたようだ。業種別では、為替ヘッジを通常付けない年金勢の投資が増えており、オープン投資が多かった」と、野村証券のチーフ金利ストラテジスト、中島武信氏は分析する。

金利上昇(債券価格下落)リスクが残る場合は、投資家は慎重になりやすい。「特に日本の投資家が得意とするのはレンジ相場だ。相場の急変時には投資に慎重だが、レンジ内で相場が動くようになると、安心してトレードを活発化させる傾向がある」(外資系金融機関)という。

  足元で米金利上昇は一服しているものの、市場では、米景気回復に連動して、米10年債利回りは1.3─1.5%程度まで上昇するとの見方は少なくない。一方、日本では3月に日銀の「点検」を控えるが、景気回復やインフレ率が上がらない中では、国債買い入れ額を多少減らしても、金利上昇圧力は継続しないとの見方が多い。

実際、日銀が18年7月に長期金利操作の変動幅を0.1%から0.2%に拡大させた際、30年債利回りは0.6%台後半から10月に0.95%まで上昇したが、年末には0.705%に低下し、年初の水準を下回った。

ALM(資産と負債の総合管理)の観点から保有資産に応じて円債を買わなければならない国内投資家は少なくないが、日米金利の格差拡大が一服した後で、オープン投資を含めた米債シフトがじわりと進む可能性もある。

(伊賀大記 編集:石田仁志)

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