ニュース速報

ビジネス

大手行のCLOは満期保有が中心、連鎖安誘発せず=日銀・金融庁調査

2020年06月02日(火)19時50分

[東京 2日 ロイター] - 日銀と金融庁は2日、日本の金融機関による海外のクレジット投融資をテーマに実施した合同調査を踏まえたリポートを公表した。大手行のCLO(ローン担保証券)投資は増えてきたものの、満期保有で投資するケースが圧倒的で、CLO価格の連鎖的な下落を誘発するリスクは低いとされた。リスク管理手法の工夫で大手行は投資を慎重に行っているが、新型コロナウイルスの感染拡大で先行きが見通しにくく、リスク管理のさらなる徹底や外貨調達手段の充実が必要と指摘した。

調査は2019年8月から12月にかけて、大手銀行、地方銀行、信用金庫、証券会社、保険会社など約400先を対象に行った。19年3月末時点の海外クレジット投融資残高は融資が約160兆円、投資が約100兆円。融資、投資いずれについても大手行が大きな割合を占め、地銀などその他の業態の残高はわずかだったことが判明した。

大手行の海外融資のうち、レバレッジド・ローン(レバローン)の残高は19年3月末時点で約14兆円。海外クレジット投資ではCLOへの投資が伸びており、19年9月末の投資残高は13.8兆円と、16年3月末の5.1兆円の2.7倍となった。

<CLO、4分の3が「満期保有」>

今回のリポートで、大手行のCLO保有のうち、約4分の3が「満期保有目的」に区分されていることが判明した。CLOは流動性が低いため、価格下落で投げ売りが殺到すると下げが増幅されるリスクがあるが、大手行が満期保有としていることで「(大手行が)スパイラル的な価格下落のきっかけを作る事態は、安定した外貨調達基盤が確保できている限り、生じにくいとみられる」と指摘した。

リポートはリーマン・ショック時に危機を増幅する要因となったサブプライムローンを裏付けとする証券化商品との違いに言及。大手行がCLOのAAA格に集中的に投資している点について、リーマン・ショック時に大きな損失につながったのはCDOなどデリバティブを組み込んだ仕組みの複雑な再証券化商品が中心で、当時もAAA格のCLOについて元利払いが毀損した例はなかったとした。

また、リーマン・ショック時は証券化商品自体を担保とするレポにより投資資金を調達していた投資家が多かったことから、証券化商品の価格が下落すると資金調達難や投げ売りにつながりやすかったのに対し、CLO自体を担保とするレポにより投資資金を調達している先はあまり見られないことなどを紹介した。

<先行きのリスク管理>

新型コロナの感染拡大の実体経済やマーケットへの影響は不確実性が大きい。大手行は海外クレジット投融資の拡大に総じて慎重姿勢にあるものの、環境が改善して改めて本格的に取り組む場合でも「二番底のリスクも十分に意識した慎重な検討が求められる」とした。

CLOを満期保有していても、保有銘柄の格下げが起きれば市場価格の大幅な変動による減損損失の発生リスクがある。特に投資家からの換金請求に応じる仕組みの「オープンエンド・ファンド」によるCLOやレバローンが拡大するなど、資金調達基盤が相対的に脆弱なノンバンクの役割が高まっているとし、ファンドから短期間に大量の資金が流出した場合、CLOやレバローンの流動性の急低下による価格の大幅変動や、借り換えが困難になってデフォルト率が想定以上に高まることには十分警戒する必要があるとした。

CLOの処分売りにつながらないように、金融機関が安定的な外貨調達基盤を確保することの重要性も高まっているとした。

今回のリポートは、経済トピックを簡潔に解説する「日銀レビュー」シリーズとして発表された。日銀・金融機構局と金融庁・監督局の連名で出されたが、執筆者に金融庁が掲載されるのは初めて。

*余分な文字を削除して再送します。

(和田崇彦 編集:青山敦子)

ロイター
Copyright (C) 2020 トムソンロイター・ジャパン(株) 記事の無断転用を禁じます。

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

「戦争の恐怖」から方向転換を、初外遊のローマ教皇が

ワールド

米ブラジル首脳が電話会談、貿易や犯罪組織対策など協

ワールド

米議員、トランプ政権のベネズエラ船攻撃巡り新たな決

ワールド

トランプ氏、バイデン氏の「自動署名文書」を全面無効
MAGAZINE
特集:日本時代劇の挑戦
特集:日本時代劇の挑戦
2025年12月 9日号(12/ 2発売)

『七人の侍』『座頭市』『SHOGUN』......世界が愛した名作とメイド・イン・ジャパンの新時代劇『イクサガミ』の大志

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    大気質指数200超え!テヘランのスモッグは「殺人レベル」、最悪の環境危機の原因とは?
  • 2
    トランプ支持率がさらに低迷、保守地盤でも民主党が猛追
  • 3
    人生の忙しさの9割はムダ...ひろゆきが語る「休む勇気」
  • 4
    若者から中高年まで ── 韓国を襲う「自殺の連鎖」が止…
  • 5
    コンセントが足りない!...パナソニックが「四隅配置…
  • 6
    海底ケーブルを守れ──NATOが導入する新型水中ドロー…
  • 7
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙す…
  • 8
    「世界一幸せな国」フィンランドの今...ノキアの携帯…
  • 9
    22歳女教師、13歳の生徒に「わいせつコンテンツ」送…
  • 10
    もう無茶苦茶...トランプ政権下で行われた「シャーロ…
  • 1
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで墜落事故、浮き彫りになるインド空軍の課題
  • 2
    【最先端戦闘機】ミラージュ、F16、グリペン、ラファール勢ぞろい ウクライナ空軍は戦闘機の「見本市」状態
  • 3
    7歳の息子に何が? 学校で描いた「自画像」が奇妙すぎた...「心配すべき?」と母親がネットで相談
  • 4
    100年以上宇宙最大の謎だった「ダークマター」の正体…
  • 5
    【クイズ】次のうち、マウスウォッシュと同じ効果の…
  • 6
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 7
    128人死亡、200人以上行方不明...香港最悪の火災現場…
  • 8
    【寝耳に水】ヘンリー王子&メーガン妃が「大焦り」…
  • 9
    【銘柄】関電工、きんでんが上昇トレンド一直線...業…
  • 10
    【クイズ】世界遺産が「最も多い国」はどこ?
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後」の橋が崩落する瞬間を捉えた「衝撃映像」に広がる疑念
  • 3
    「不気味すぎる...」カップルの写真に映り込んだ「謎の存在」がSNSで話題に、その正体とは?
  • 4
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 5
    【写真・動画】世界最大のクモの巣
  • 6
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 7
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 8
    まるで老人...ロシア初の「AIヒト型ロボット」がお披…
  • 9
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中